「富士雄から説明があった通り、わたくしは友人を助けようと思いまして、遊郭へ向かったんです。ひとりで行くなんて無謀なことをしたと、今は反省しておりますが、あの時は本当に必死だったんです」


春樹はコクリと頷き、先を促した。


「ところが遊郭に入ってすぐのことです。なんだか頭がぼーっとして体が言うことを聞かなくなって、そのまま意識を失ってしまったんです。気がつけばわたくしは遊女としてここにいました。なぜ自分がここにいるのかという疑問を持つ気力もなく、ただただ客を取らねばならないと思い、逃げだすことは一切頭にありませんでした」


「それはあやかしの仕業だ。負の力を持ったあやかしは簡単に人を操る。今回のあやかしはそれほど強い力は持っていなかったけれど、一般人にはあらがえないだろうな」


春樹が言った時、後方が騒がしくなった。


振り向いて見てみると、楼主が役人たちに囲まれて連れだされるところだった。


かっぷくのいい楼主は必死に暴れているけれど、役人たちに挟まれているので逃げることもできない状態だ。


「楼主の悪事は他にもありそうだな」


春樹はポツリと呟いたのだった。