それから街へ戻ってみると遊郭の周りでは男と女が入り乱れて抱き合うという光景が繰り広げられていた。


文字通り抱き合っているだけなのだけれど、


「な、なんだこりゃあ!?」


と、男女のもつれなんて見たこともない幸祐は顔を真っ赤にしてうろたえている。


そんな中、春樹は人ゴミをかき分けてずんずん進んでいく。


そして萩野の前で足を止めた。


「あ、阿部さん!!」


萩野はすぐに春樹に気がつき、抱きしめていた規子から手を離した。


萩野の目にも規子の目にも涙が浮かんでいる。


「ありがとうございます! あなたのおかげで規子は無事に戻ってきました!」


萩野は地面に頭がつきそうなくらいにお辞儀をして言う。


春樹は小さく頷くと、規子へ視線を向けた。


「富士雄さんから聞きました。あなたがわたくしたちを助けてくださったんですよね? 本当に、ありがとうございます」


頭を下げた規子が次に顔をあげた時、その頬には涙が流れていた。


「それではやはり、自分の意思ではなく?」


幸祐の言葉に規子は頷く。