幸祐は咄嗟に後ずさりをしていた。


「春樹くんだって私と同じことができる。いや、私以上の力を持っているのに、その力はほとんど使っていないのでしょう? もったいないとは思わないのですか?」


「思わないね」


春樹はまっすぐに亜乱を見据えて言い放つ。


春樹は少しも歩み寄る気はないようだ。


「一緒に商売をしませんか……と、お誘いしたかったのですが、どうやらそれは無理なようですね」


亜乱の赤い目が春樹の動きをとらえた。


春樹は懐に手を忍ばせて式神を取り出そうとしているのだ。


亜乱は微かに唇を引き結ぶと袖の下から和紙に書かれて折りたたまれた絵を取り出した。


「行け、式神!」


「出でよ、鬼」


2人が同時に声を発する。


春樹が使役した式神が空中と飛び、亜乱へ向かってスピードを上げる。


ただの和紙だったそれは一瞬にして春樹の身長を超える巨大な式神へと変化していた。


亜乱が使役したのは墨絵で書かれた鬼だった。