「どうしてあの大黒天は逃げだしたんだ?」


式神を追いかけて歩きながら、幸祐が言った。


「元々大黒天は戦いの神様じゃないだろう。その上あの体たらくっぷりだ。戦ったとしても勝てるわけがないと、本人が一番よくわかってるはずだ」


なるほど。


と、幸祐は頷く。


街の中はさきほどの式神と突如姿を見せた大黒天のことでもちきりだった。


しかし、大黒天が歩いた後はなにもなく、建物が壊れた様子はない。


姿は見えても実態はない。


今のあやかしは、そういうものだったようだ。


それからしばらく歩いてたどり着いたのは山の小屋だった。


小屋の1メートル手前には春樹が作った式神が落ちている。


春樹はしゃがみ込んで式神を掴むと「お疲れさま」と呟き、懐にしまった。


「今の式神、死んでるのか?」


「あぁ」


「なんで? 大黒天は戦わないんだろ?」


「これが死んだのは大黒天のせいじゃない」


春樹は立ちあがると小屋へ一歩近づく。


そして観察するように見つめ始めた。


「どうしたんだよ。この中にあいつがいるなら早く行こうぜ」


幸祐が春樹の前に立って小屋に近づいて行く。


と、その瞬間だった。