「わかったって、楼主とはなにも話してなかったじゃねぇーか」


「その必要もなかった」


「なんだよ、俺にもわかるように説明してくれよぉ」


勝手にひとりで納得していることが嫌なのか、幸祐は今にも泣きそうな声を出した。


「お前、気がつかなかったか?」


春樹は部屋の隅から大割れと呼ばれる旅行用かばんを引っ張りだしてきて聞く。


「気がつく?」


「あの楼主だけ生気があっただろう」


そう言われてハッとした。


確かにそうだ。


あの楼主はかっぷくもよくてニコニコと愛想のいい笑顔だった。


商売人なのだから当たり前だと思って見ていたが、あの遊郭にいる他の全員が生気を失っているのだからおかしな話だったのだ。


「そういえばそうだな」


「それに、壁に大黒天の絵が飾られていた」


「そうだっけ?」