薄暗い部屋の中、1人の男が胡坐をかいて座り、手には白い和紙を持っていた。


ロウソクで照らし出された室内はゆらゆらと揺れて、今にも溶け落ちてしまいそうなはかなさがあった。


男は人形に切り抜かれた和紙を掌に載せ、そっと息を吹きかける。


その瞬間、和紙はまるで生きた人間のように二本足で立ちあがり、男の手のひらから板間へと軽快に飛び降りた。


板間には他にも何枚もの和紙がいて、好き勝手に歩き回っている。


さきほど男の手を離れたばかりの和紙は早くもその場でクルクルと回転したり、他の和紙と手を取ってダンスのような動きをして、その場に馴染んでいる。


その様子を無表情で眺める男。


と、静かだった室内に足音が近付いてきた。


それはタッタッタとリズミカルに近づいてくる。


それが聞こえてきた瞬間、板間で遊んでいた和紙たちは同時に力をなくしたようにパタパタと倒れていった。


男はすぐに足音の主が誰なのかわかったようで、玄関戸へと視線を向けた。


ちょうどよく1人の男が大きな音を響かせて戸を開いた。