後藤部長に会釈して、愛美は親友であるさやかと珠莉の待つ寮の部屋に帰った。
 それぞれ陸上部と茶道部に入った二人(さやかは陸上部・珠莉は茶道部)は、今日は部活が休みだと言っていたのだ。

「――ただいまー」

「あ、愛美。お帰りー」

 部屋に入ると、すでに長袖パーカーとデニムパンツに着替えていたさやかが出迎えてくれた。
 珠莉はスマホを手に、誰かと電話している様子。

「部活はどう? 楽しい? ――はい、コーラどうぞ」

 スクールバッグを床に置き、勉強スペースの椅子に腰を下ろした愛美に、さやかは炭酸飲料の入ったグラスを差し出す。

「ありがと。――うん、楽しいよ。一年生の子たちとも、だいぶ打ち解けてきたかな。さやかちゃんの方は?」

「楽しいよ。まあ、練習はしんどいけど、走ってるとスカッとするんだ。記録(タイム)も縮まってきてるし、うまくすれば来月の大会に出られるかも☆」

「へえ、スゴ~い! わたし、その時は絶対応援しに行くよ☆ ……ところで珠莉ちゃん、誰と話してるの?」

 愛美は電話中の珠莉をチラッと見ながら、さやかに訊ねた。

「ああ。なんかねえ、ほんのちょっと前に純也さんから電話かかってきてさ。もう、ホントについさっき」

「純也さんから?」

 彼の名前が出た途端、愛美の胸がザワつく。
 この部屋で、四人でお茶を飲んでからまだ数週間。こんなにすぐに、また彼の名前を聞くことになるなんて思ってもみなかった。

(……純也さん、わたしに「電話代わって」って言ってくれたりしないかな……なんて)

 こっそり、淡い期待を抱いてみる。自分から「珠莉ちゃん、電話代わって?」と言うのも、何だか厚かましい気がするし……。

「――えっ、愛美さんに代わってほしい? ……ええ、今帰ってきたみたいですけど」

 その期待が、純也さんにも伝わったんだろうか? 彼と電話中だった珠莉が急に驚いた様子で、愛美の方を振り返った。