「ごめん、ジュンくん、今日はもう」

 「アキトさん、泊まり込みでしょ? 俺知ってるんだよ、なんで帰ろうとするの」

 「でも、ほら」

 「ねえ、しようよ。アカリさんも俺のこと好きなんだから」

 一回、してしまったらずるずると続いていくのなんてわかっていたはずなのに。いつだって彼は自分に言い聞かせるように「アカリさんも俺のこと好きなんだから」って繰り返していた。何回も、そのたびに私は―――。

 ◆

 本気で、すべてのデータも、プログラムも、この場で消そうかと思った。

 息ができない。彼女はそういってジュンイチを見ていた。なにが、なにがそんなにきれいなもんか。
 嘘つきの、ああ、みんなして、嘘をつく人はどうして綺麗な言葉を使いたがるのだろう。そうやって自分を正当化してみたってやってることはかわらない。一番騙せないのは他人より自分のほうだって、わかっているはずなのに。

 私はこんなに人間になりたくてしかたがないのに、それをやすやすと私なんて、と自分を卑下し続ける彼女の記憶がとてもとても悲しくて、それ以上に許せなかった。
 私はどうやったってあなたになれないのに。今も昔も、あなたになんてなりたくないのに。

 「データの同期が完了しました。接続を解除してください」

 「終わったわね、キヨ気分はどう?」

 「なんともないよ、ねえマリア、私マリアの紅茶が飲みたくなっちゃった」

 「思ったよりかかったものねー、疲れてるんだわ。お菓子用意してくるから支度終わったらカフェテリアに来なさいよ。エレーヌとスピカも呼んでくるわね」

 「うん、お願い」

 ぱちん、と音がしそうなウインクをしてマリアは部屋を出ていった。がちゃがちゃとジュンイチが機材を片付けている間に恰好を整える。

 「ジュンくん」

 私がデータの中にある彼女の声でそう呼べば、ジュンイチは驚いたように私を見た。
 まるで想定していなかったとでも言いたげに。そうか、彼は知らなかったのか。自分を愛してくれた人を作ろうとしていたくせに、その入れ物にすら何の興味もなかったんだ。