ファブリさん、とやらがなにやら詰め寄られている。ぐったりとしたキヨハを抱え直して近くのテーブルに横にならせるとキヨハは目を開けたまま止まっていた。

 「キヨハっ」

 「大丈夫、電源を切っただけよ」

 「電源…」

 人間的でないその単語に少し身構える。知ってしまっても、騙されたっていうよりは好きだって感情が勝ったしそれは嘘じゃない。
 とはいえ手首の断面は凝視してしまうし、電源だなんて言われたらことさら彼女が人ではないんだって思わされてしまう。

 「レイ」

 兄さんが俺の前に立つ。自分が追いかけてた兄はこんなだっただろうか。いつだってこの人は求められていて、それを叶えるだけの力も才能も持っていて、なのにやりたいことのために逃げ出したんだと思っていたのに目の前にいる兄は、どうしてこんなに寂しそうなんだろう。

 「もういいだろ、お前には母さんも親父も期待してる、こんな将来なんて見据えられないアンドロイドと付き合ってどうするんだよ」

 「将来? 兄さんに将来の話なんかされたくない。いつもいつも俺の前を歩いてて俺にないもの全部持ってるくせにこれ以上俺にどうしろって言うんだよ」

 「キヨハは、俺の最高傑作なんだ。見た目も中身も持てる限りの金と時間と技術をかけた。もう俺にはこの子しかいないんだ。うまくいったことなんかなにもない、だけどキヨハは、キヨハだけは」

 自分が見ていた兄はいったい何だったんだろう。

 いつだって、なんだってそつなくこなしてはどこか周りを冷めた目で見ていた、父さんの愛情を一番に受けていたあの人は俺の妄想だったとでもいうんだろうか。キヨハだけは?そんなの、俺だって同じだ、誰にも理解されない、させてはいけない、俺は兄さんに追いつけもしない、俺にとってキヨハは

 「キヨハは、俺を選んだよ」

 「フィールドにいたのが偶然お前だからだろう、確率論で言えばお前と同じ立場になる人間は」

 「確率なんてどうだっていい、大切なのは今っていう結果だろ」

 「…お前、学者向いてるよ」

 「そりゃどうも」

 大切にしてたものをかすめ取られるような感情なんだろうか、だって兄さんの言い分ではまるで機械だってアンドロイドだって自分の作品だって、そのうえで彼女のことを愛してるみたいな言い方だ。

 どうして、俺とは状況が違う。人間だと思ってたわけじゃない、なのに兄さんはキヨハのことを好きだって?