「おなかすいたね、アオイたちまだかな」

 「お昼時だから混んでるのかもしれないね」

 休憩のアナウンスで、レジャーシートまで戻るといつのまにか館内は溢れるほどの人がいてあっちもこっちも列をなしている。おいしそうなにおいが漂う中でシキちゃんは口を開く。

 「本当はさ、今日もしかしたらマユは来ないかもしれないって思ってた」

 「え?どうして?」

 「マユってレイのこと好きだったから」

 初耳だった。きっと私は目を見開いていたんだろう。ばつが悪そうにシキちゃんは続ける。

 「入学当初ってさ、あいうえお順で席が決まってたんだ。オミハラとカガチで前後に並んでて後ろのほうに居て、だから前からコモリ、ササキ、スズノメ、ソウマ、タカシロってくるんだよね。そうなるとアオイとレイって席隣なの。あたしはそれでアオイと話してたからマユと仲良くなったんだけどさ」

 ほんの数カ月前のことだろうに、思い出すように目線を揺らしてシキちゃんは言う。そうか、レイとカガチくん、特別仲良しには見えなくても親しかったのは最初のころに席が隣だったからなんだ。それで、その斜め前にはマユがいた。

 「あんなふうに喧嘩腰に見えるけどマユはあれで精いっぱいみたいで。レイばっかり毎日見ててさ、一回席替えして席が離れて、しばらくしてキヨハが入ってきてまた席替えしてさ。…もう、最初から言ってたんだよね。レイが、キヨハを見てるのがなんかいつもと違うんだって」

 「好きだったから、気づいたってことかな」

 「多分ね」

 レイは本性出してないみたいなこといっていたけど、マユはきっと毎日毎日飽きることもなくレイだけずっと見ていたんだろう。そうじゃなきゃ変わったかどうかなんてすぐわかるはずもない。

 私に親切にしてくれたのは嘘ではないかもしれないけれど、そのときどんな気持ちで私のことを見ていたんだろう。

 レイはマユの気持ち知ってたのかな。いいや、レイのことだから気づかないだろうし気づいてても知らないふりするだろう。だって、レイは自分で言っていた、そんな余裕はないとか俺は面白い人間じゃないとか。マユは、マユのほうがもっとレイのこと見ていたかもしれないのに。

 「レイがどう思ってようがキヨハにその気がなきゃ関係ないじゃんとは言ったけど、まあ現にこうして付き合ってるわけだしね」

 「マユ、気を悪くしなかったかな。知らなかったとはいえすごく無神経なこと言っちゃった気がする」

 「キヨハと並んだらさすがに諦める、なんて言ってたよ。本心はわたしも知らないけど、一緒に水着買って遊んでるわけだし、べつにキヨハのこと嫌いになったりはしてないよ」

 「そうだといいんだけど」

 戻ってくる三人が見えた。シキちゃんは軽く手を振って、三人を見ながら言う。

 「余計なこといったけど、気にしすぎないほうがいい。だれが悪いとかじゃない」

 「そう、だね」

 マユの顔を見てもうまく笑えるだろうか。悪いことをしたわけじゃない、レイと付き合ってたわけじゃない、そもそもマユの気持ちなんて知らなかった、だけど、これじゃまるで

 「キヨハ? どしたん、具合悪い?」

 「う、ううん! 顔色変?水飲んでなかったからかも」

 「おお、それはダメだよ水分とんないと。見てみて、焼肉マヨ丼だって、一緒に食べよ」

 「うん、マユもお茶いる?」

 まるで、アカリとそっくりじゃない。