『へえーなんだ、収まる感じで収まったんじゃん』

 『よかったな、キヨハ』

 「マユの手のひらで転がされた感じはあるよね」

 『ええっ、なにそれ人聞き悪いなあ!』

 帰ってきていてもたってもいられずにマユとシキちゃんに電話をかけた。二人ともよかったねって笑ってくれて、マユに至っては電話口なのににやにやしているのが良くわかる話し方だった。

 『レイが、その、なにかコンプレックスみたいなことを言ってたって話はこの間話したお兄さんのことか』

 「うん、優秀な人らしいよ。まあでも年上の兄弟って総じて優秀じゃない?」

 『まあ弟妹は兄姉を越えられないというし』

 家庭環境とかジュンイチの地頭のことを置いといても自分より十年も先に生きている人を越えようってのは厳しい話だと思う。例えば一流のアスリートだとか、棋士だとかなら話は別かもしれないけれど教育の水準だってジュンイチとレイとでは振り幅が大きいだろう。

 『そういうのもひっくるめて好きになるしかないよねー』

 「難しそうだけど、そんなの気にしてたら何もできないもんね」

 『そうそう、人生なにごとも一回きりだよ』

 たしかにな、と思う。私がこれから先どれだけ長生きしてみたって同じ人間に同じように出会うことはない。私はみんなが歳を重ねていく中で一人だけ同じままだけど、だからと言って同じことを何回もできるわけじゃないのだ。データは消えても事実は消えない。

 「私ね、まだレイに隠してることがあって、でもそれも簡単に人に言っていいことじゃないんだけど、これは嘘になるのかな」

 『人間なんだから言えないことなんていくらでもあるさ』

 『そうそう、あ、でも実は大きな病気でとかそういうことは早めに言ったほうが良いと思うけど。どういう感じのはなし?』

 「私の、家族と体の話かな」

 『なんかデリケートな話っぽいなあ、もっとちゃんと付き合ってからでもいいんじゃん?』

 「そっか、そうだよね。ありがとう」

 『うちらにも言っていいかなってなったら教えてよ』

 「うん、きっとそのうちに」

 二人はもし私のことを知ったらどんな反応をするんだろう。面白がるかな、気味悪がるだろうか。いつか話してもいい日がくればいいと思うし、そのうえですっかり騙されちゃったって笑ってくれればいいのになと思う。