「結構歩いたなー」

 「痩せるかな?」

 「これ以上痩せたら骨と皮だよ」

 一日一緒にいてわかったのは、やっぱり本性はおとなしくてどことなく卑屈だ。私のことをものすごく気遣うくせに自分に自信がなさそうで、どこ見てるかわからない。本当は私のことだって見てないんじゃないかって。

 「で、なにが聞きたいの」

 「私レイのこと好きかもしれない」

 瞠目。絶句。そんな一言で表せそうな顔で、だけど目線は絶対外さないように。だっていまここで目をそらしてしまったらレイがどこかへ行っちゃうような気がする。少し汗ばんだ指先を摘まむように手を重ねると少しだけ後ろへ引かれた。嫌がってるという感じじゃなくて戸惑っている感じがした。

 「かもしれないってなに」

 「まだわかんない、だけどレイが誰かにとられたらいやだ」

 「俺は、キヨハが思ってるほど面白い人間じゃないから」

 目線を落としてレイは自嘲する。そんなもの求めてない、明るいとか、面白いとか、大切なことかもしれないけれどそんなのは私が一緒にいる中で私だけが思えばいいことで第三者に評価されてるレイが好きなんじゃない。

 自分勝手な理由の為に私はレイと一緒にいたくて、私にとって大切なのは彼が私といたいと思ってくれることと私に歩み寄ってくれるかどうかだ。レイが恋人に何を求めるかは知らないけれど、私にできないことなんてない。だって私は

 「レイに彼女ができてほしくないの、レイが面白いかどうかなんて関係ない」

 「そんな余裕ないよ、だって俺は兄さんみたいにできない」

 「兄さん?」

 ジュンイチのことってそんなネックになるようなことがあるんだろうか。とはいえ私が知っていることをべらべら話すわけにもいかない。

 レイが口を開くのをじっと待つ。目はそらさない、唇を薄く開いては閉じて、噛みしめてはまた開いてを繰り返す。通り過ぎる人もまばらで夕闇が濃くなってくる。熱い風に乗って笛と太鼓の音がした。