「足平気?止まる?」

 「ううん、大丈夫。すごい人だね」

 「規模大きいからね、あ、あったたこ焼き」

 「あれ大きいやつじゃない?」

 「イイダコ入ってるやつっぽい」

 列を見つけて並ぶとレイは手を離す。並んでて、というとすぐ近くの自販機へ近づいて行った。
 暇になって周りを見渡すと、家族連れとカップルと学生のグループが何組も入り乱れるように歩いている。お囃子が近くなるとはっぴやねじりはちまきの大人のすぐそばを同じ格好の子供たちが声を上げて縄を引いていた。あの子たちは十年後も同じようにお祭りに参加してそのたびに懐かしい気持ちになったりするんだろうか。

 自分の記憶だけで生きていくってどんな世界だろう。そんな中で当たり前のように誰かを好きになったりするのかな。なんの事前知識もなく?誰の経験にも頼らず?そう考えたら私のやっていることってずるいんだろうなあ。

 「何見てたの?」

 「あれ、かわいいね。縄引いてるんだか縄に引かれてるんだか」

 「どっから声出てるんだろうな」

 はい、と汗をかいたスポーツドリンクを渡される。ありがたく受け取って口をつけると食道管に水分が流れていくのがわかる。私は汗はかくけれど、暑さは感じないし喉も乾かない。同じ空間にいても、レイと同じものを感じるのは難しい。いいなあ、こんなときまで彼女が羨ましい。想っていることが同じでも、感じるものが全くちがうなんて不公平だ。

 「はい、レイも飲まないと」

 「あらやだ、間接キスだわ」

 「やっぱだめ」

 「待って待って待ってごめんってば、あ、飲みさしとか気にする?」

 「レイが言わなきゃ気にしなかったんだけどなあ」

 やらかしたなあ、とか言いながらレイは平然とペットボトルに口をつけた。気にしないんだとなんだか残念な気持ちになる。聞いてきておいてそんなに平然とされるのはなんだか気にくわない。

 「マヨネーズ食べれる?あ、青のりかけないほうがいい?」

 「えー青のりほしい、大丈夫だよ、歯についても私可愛いから」

 「なんだそれ、腹立つな」

 笑いながらたこ焼きを受け取ると反対側の手で私の腕を引く。そうだ、私は彼女とアキトさんの時間だって見ているじゃないか。

「キヨハって冷え症?手冷たいね」

 「低体温なんだよ」

 「そっか、俺の手が熱いだけね」

 私の体に体温なんかない。機械が稼働している熱は少なからずあるけれど人間の平熱なんかには遠く及ばない。今だって、俺の手がってレイは言ったけれどレイは平熱で、太陽にあてられたわけでもない。それに掴まれたところが熱いと思ったのは物理的な熱のせいなんかじゃない。

 私はレイが好きなんだ。

 言ってもいいかな、好きだとか私は人間じゃないとか、困るかな、困るんだろうな。困ってほしいわけじゃないのにどうしていいかはよくわからない。嘘をついているみたいで苦しくなるし、けれどそれ自体がもうどうしようもないことで、それの共犯にしたらレイがどれだけ大変になるかなんて容易に想像できる。