「答えて、なんでよりにもよってレイなんだよ」
「クラスメイトにレイが居るってあらかじめ聞いてたはず。ルイさんだって一緒にいた」
「仲良くなるとは聞いてなかったぞ」
「そんなの私にわかるわけないでしょ」
追いついた三人が何が起きたのかとマリアたちに小声で訊ねている。ジュンイチの目はあいかわらずぼんやりとしていて焦点が定まらない。
「だから嫌だったんだ、俺は反対したじゃないか。キヨハも結局そうやって」
「ジュンイチ私のことなんだと思ってるの?」
「は?」
もうしばらく思ってたことだからこの際はっきりさせてしまおう。ジュンイチの執着の原因がどこにあって、なんでそうなってるのか、アカリで補えなかった部分がなんなのか、どうしてそんなにレイを避けたがるのか。
「ジュンイチ私が研究材料ってこと忘れてるでしょ」
「なに言って」
「みんなは私を家族だって言ってくれるよ、でも私がアンドロイドだって忘れてるわけじゃない」
「そんなの俺が一番わかってるよ」
「わかってないよ、アカリと重ねてなくたって私をアカリの代わりにしようとしてるだけ。研究材料じゃなくて個人的な感情で私に執着しすぎだよ。レイのこと気にしてるのだって人間じみた独占欲で、私が人間じゃないのに人間みたいに思ってるからレイと話すのが嫌なんでしょ」
「え、っと…キヨハ、私たちにもわかるように言ってくれないかしら」
あけすけに言ってしまえば簡単な話で、私はアカリの穴埋めだと思われていて、ジュンイチは私を個人として愛していて、アンドロイドだから自分の所有物のような感覚で、それと並行して人間に向けるのと同じ嫉妬をしていて、私を手元に置いておきたいんだろう。
「私はジュンイチの恋人でも娘でも、まして所有物でもない」
「キヨハは俺が作ったんだ!」
泣くか。泣くほどか。ファブリとショーンが驚いたようにジュンイチを見た。私が前にジュンイチに言った私から手を引いたほうがいいという意見はいまも変えるつもりはない。AIへの情熱は本物で、知識も技術もこれからの科学の発展の為にジュンイチほどの優秀な頭はいくらでも投資するべきだ。
だとしても、彼はもう私の研究をすべきじゃない。だって私に向けられた熱はAI研究よりもアカリへ向けたものと同じそれだから。
「俺はきみに愛してくれなんて命令してないだろ、俺が勝手に君を好きなだけだ、それすらも許されないって。俺は誰からも愛されてない、だから俺が、俺が一方的に」
「アカリのことまでないがしろにするな!」
つい大声でそう言えば、ジュンイチもみんなも信じられないものを見たような顔をしていた。そうだ、だって私には「激情」って設定はないもの。怒ったり大泣きしたり、そういうことはできないようになっている。理性を欠くと何をするかわからないからってそんな理由で。何度も何度も何度も自分に言い聞かせてきた、私は外側だけのまがい物で、中身は空っぽなんだって。
いつまでもそんな設定だけで、人間になれたりするもんか。