「結局さ、キヨハはレイのことがめっちゃ気になるってことだよね」

 「そうだねぇ、そうなるのかなあ」

 「付き合いたいとか思わないのか?」

 「だって、レイは私のこと良い友達だと思ってるかもしれないよ」

 「キヨハに迫られて落ち着いていられる男子高校生なんているかなあ」

 見た目だけならともかく、レイはそれくらいで私のこと好きになってくれるんだろうか。ジュンイチの言い分だと私の外見には、人間に見えるという一点を除いてほとんど興味がなさそうだった。レイが同じかどうかはわからないけれど、そういう人間もこの世には存在するのは本当だ。レイが外見でころっと惚れてくれるようならもう付き合ってただろう。

 寂しいのかなって思った。あの日電話口で本当に自分も居ていいのかって夏休みのことを聞かれたとき、来ないのかと平然と返したけれどもしかして居場所がないのかもしれないって。それこそジュンイチのように自分のことで精いっぱいなのだとしたら。アカリのように依存先がなくて不安定なのだとしたら。レイに恋愛なんてしてる暇はないかもしれない。

 恋心とかそんな綺麗なもの私は知らない。依存とか、不安定さとか、押し付けとかそういったもので作られた愛情が正解なんじゃないかって本気で思う。エレーヌがショーンに向けている感情には少なからず打算もあってただただ好きだからで済ませていい程度も私はよく知らない。

 「シキちゃんは、どういう経緯でカガチくんと付き合うことになったの?」

 「わたし?そうだなあ」

 考え込むよう少し間を開けてから彼女は口を開く。

 「小学校は普通の公立で、中学から受験したんだ。それで一年生のときにクラスが一緒で、出席番号があいうえおじゃなくて誕生日だったから席が隣で。わたしの兄貴が陸上部で、アオイも陸上やるっていうからそんな話をよくしてた」

 「そうなんだ」

 「たまたまテスト期間に教室残ってたら忘れ物とりにきたアオイと会って、そのときにアオイに好きだって言われたの。なんの脈絡もなく。前振りしてほしいよね」

 「カガチくんから告白したんだ」

 「なんか意外だよね、まあシキが告白するのもあんまり想像つかないけど」

 「そうだね、どっちかというと流れでとかそんな感じするかも」

 「そんときは断ったんだけどね、もうわけわかんなくって」

 カガチくんがそんな衝動的になった理由もぜひ聞いてみたいところだ。二人きりでチャンスだとか思って焦ったのかな、あのポーカーフェイスからはちょっと想像しにくいけれど。

 「断ったけど、びっくりしただけで嫌いなわけじゃなかったから。ちゃんとそういうの意識しながら友達やっててそのあとは、まあ流れかな」

 「でもアオイが黙ってたらシキはアオイのこと好きになってないわけだもんね」

 「そうかもしんない」

 告白されて見る目が変わるってのは本当にあるんだなあとココアをすする。粉っぽいドリンクバー特融の味がした。
 きっかけがなんであれ、二人は今もこうして付き合っているわけだし、四年目って結婚適齢期のカップルなら結婚話が上がってきてもいい頃あいだ。大きな波風が立たないのは素直に羨ましい。

 とはいえ付きあうっていう明確な映像は描けない。だってレイと付き合ったとして何をすればいいんだろう。デートに行くのは、今だって約束がある。高校生なら性的なことに関心も高まってくるかもしれないが生憎私の体はまがい物でマネキンととくに変わらない。さすがに性生活のことなんて聞けないしなあ、と内心苦笑した。

 「好きなんてよくわかんないよ」

 「でもさ、レイが居なくなっちゃったら寂しいんじゃない?」

 「うん、そんな気がする」

 「じゃあそれくらいには好きかな、って認識でもいいじゃん。そういうのも踏まえて夏休みの予定立てればいいんだから」

 にしし、と悪戯っぽくマユはそういった。