「じゃあ、補習がある人は説明あるから多目的教室に移動ね。くれぐれも羽目を外さないように過ごしてください。はいっ、解散」
「やったあああああ夏休みだー!」
夏休み中の過ごし方、みたいなプリントを配られ注意事項を聞いて、アリシオ先生はいつもの感じで夏休み開幕を告げた。
「マユ、落ち着け」
「これが落ち着いていられるかっ夏休みだよ夏休み」
「宿題もちゃんとやらないとね」
「やめてよせっかく忘れてたのに」
テストは今回もレイが一位。五教科で四百九十六点って彼はいったいどんな頭を持ってるんだろう。人間の脳はいまだに謎が多いけどジュンイチもルイさんも、マリアも、そしてレイも、覚えることが得意だったりできる人間って私みたいな作り物の脳なんかよりはるかに優れていると思う。
「キヨはいきなり十位以内なんてすごいよねー宿題ささーっと終わるんでしょ」
「でもシキちゃんには勝てなかったから」
できる限り不自然にならないように、間違っても全問正解なんてしないように意図的に間違いを書いてたつもりだったけれど思ったより順位が高くなってしまって焦りながらみんなに話をしたらAIも万能じゃないねと笑われた。
方向性は真逆だけど、その抜けている感じとか焦っているところは普通の高校生っぽいよとも言われた。
宿題もテストもあってないようなものだし、校長先生とアリシオ先生は私の事情を知っているから特にどうとも思わないかもしれないけれど、本当に全力でやっているのに私に点数で負けて悔しがっている人も居るかもしれない。どうしようもないことだけに、なんだかなあという気持ちになる。
「ねえねえ、とりあえずさ、プールと海は絶対行きたい」
「そうだねえ、お盆過ぎるとクラゲも心配だし早めに行こうか」
「いつがいいかな」
ルイさんに聞いたら、一泊二日くらいの旅行ならと許可が出た。事前にいつどこに誰と行くかを伝えれば好きに出かけていいとも。夏休みなんだから、と頭をなでてくれたルイさんに嬉しくなって抱き着くと来た時よりももっと人間らしくなったと嬉しそうに言ってくれた。
渋い顔をしたのはむしろジュンイチのほうで、旅先で何かあったらとずっと嫌がっていたけれど、ほかのみんなに猛反対されていた。このところ、毎日のようにジュンイチに世話を焼かれているけれど少々私に対して依存の気が強まっているような気がする。
私はもうジュンイチのことを考えるのをやめようって、エレーヌだってアカリに引っ張られそうなら設定いじってくれるとまで言っているし、とにかくもう私の世界には彼だけっていうのは終わった。
「とりあえずグループ作ってそこで話まとめよう。アオイはこれから部活もあるし」
「え、終業式まで部活やんの。エグいねぇ、陸上部」
「運動部なんてどこもそんなもんだろ、じゃあまたな」
「熱いから、水分補給しっかりね」
「おー」
「帰りファミレスとかで予定たてよーアイス食べたい」
「また? 太るよ」
「レイ、レイも一緒に行く?」
何気なく振り向いて、いつも通り男の子たちと騒いでいるレイに声をかけるとマユもシキちゃんも、男の子たちも、そしてレイもぴたりと固まってしまった。なにごとかと私が挙動不審になると男の子の一人がおずおずと口を開く。
「タカシロさん、いつのまにレイと仲良くなったの?」
「へ?」
あっ、と気が付く。そうだ。電話してからなんとなく毎日のようにずるずると連絡を取り合っているけど学校ではもともとそんなに話をするほうじゃない。休み中なにがしたいかなんて話もずっとしていたから計画たてるんならレイも来たらいいのに、と思ったけれど傍から見たら何が起きてるんだって感じだろう。
「あ、あの、一緒に遊びに行こうって先週話したし、ねえマユ、シキちゃん」
「うん、まあ、したけど」
「キヨハから声かけたからびっくりした」
やらかした、と思ったけれどもう遅い。まだレイは固まっていてマユがにやにやとこちらを見ている。
「い、や、男一人気まずいから、やめとくわ」
「そ、そうだよね、なんかごめん」
もっともらしいことを言ってレイは来ないというけれど周りはそれだけで終われせてくれるはずもない。相変わらずマユがにやにやとこちらを見ているし、レイはレイで男の子たちに連行されるように教室を出ていった。