「焼き菓子限定? じゃあクッキー妬いたらタカシロちゃん真っ先に味見係じゃんね」
「えっ、あ、はい、食べます、いくらでも!」
「いくらでもって! そんな体のどこ入んのさ!」
あははっ、と空気が緩和する。ほっと胸をなでおろすと目の前の彼女がまたにっこりと微笑んでくれた。優しい子だなあ。
「はいはい、じゃあ席替えするからこっちの列からてきとーにクジひいて」
「あーい」
「あ、記念すべき一枚目はタカシロさんどうぞ」
くじ引きの箱を差し出され手を入れる。指先にかさかさと触れた紙を一枚とると手のひらサイズの四つ折りだった。開いていいのかな、と先生を見るとどうぞ、と促される。ほかの子たちもわらわらとクジをひいては好き勝手開いてはやったーとかうそでしょーとか騒いでいる。
「タカシロちゃん何番?」
「え、と、十三番」
「あ、すごいシオちゃーん思惑通りどまんなかだよ!」
「まあほら、ぼく日頃の行いいいから」
「それ関係あんのかなあ」
窓際の一番前から一、二、三と数字が付いていて、五人一列が四つと六人一列一つで二十六人。
十三番は真ん中の列の前からも後ろからも三番目という本当に教室のどまんなかだった。
「やったー!あたし、タカシロちゃんの右側とっぴ!」
「わたしが前だな、よろしく」
「俺左側だ」
「カガチ、ずりい!」
「後ろの席は?」
なんだかすごく気を使ってもらっているようで申し訳ない、とは思いつつさっきの一番前にいた女の子が右側に来るらしい。笑顔の愛らしいお団子ヘアだ。雰囲気がどことなくマリアに似ている気がする。幼くなったマリアはこんな感じだろうなあと思って、おもわず彼女を見つめると照れ臭そうにはにかまれた。
「後ろは俺だね」
「え、すげえ、ダブルでタカシロだ」
そうとある男子生徒がいうものだからあわてて振り向く。
「俺もタカシロっていうんだ、レイって呼んでな!これは先生に指されたら紛らわしいなあ」
「何喜んでんだよ」
ジュンイチをもっと若くして、髪をもう少し短くして、でも身長は同じくらいで、黒い縁の眼鏡をかけた男子生徒がそこにはいた。
なんでよりにもよって、思わずアリシオ先生を睨むと無言で手を合わせて頭を下げていた。日頃の行いいいんじゃないの?
右のお団子ちゃんはオミハラ マユちゃん、前の席のクールな美人がミジョウ シキちゃん、左にカガチ アオイくん、そして後ろにタカシロ レイ。別に嫌だってことはないけれど後ろ、よりにもよって後ろにレイがいるのは非常にやりにくい。どうしてこうなったんだと再度先生を睨んだ。