「あらかじめ言ってあったと思いますが、転校生がいますので、自己紹介してもらったらそのまま席替えします」

「シオちゃん先生、がばがばすぎない?」

「だまらっしゃい、仕方ないでしょーなんかこううまいこと隙間に入れる才能とか僕にはないんだから」

「なにそのシオちゃん先生しか使えない自虐」

 進学校、進学クラスなんて聞いてたからもっとお堅い感じなのかと思っていたけどそうでもないらしい。胸が痛いのは、これがきっと緊張するって感覚だからだろう。
 壁一枚隔てた向こうには、初めて見る同年代の少年少女、みんな外部の人。ここは研究室でも研究所でもない。わたしは外にいる間は、アンドロイドじゃない。

 「あ、タカシロさん、どうぞ」

 「は、はいっ!」

 おそるおそる教室に踏み入れるとアリシオ先生は黒板に私の名前を書いてくれていた。書面ではいつもG9-000と書き記されている私の名称は、ここにきてやっと人間と同じものになる。

表面だけ取り繕っているのは変わらないけれど、一歩外に出れば私のことを知っている人なんて誰もいない。それって怖いことだと思っていたのに、こんなにも自由な感じがする。

 「はい、じゃあそうだなあ、名前と好きなものとなんか一言、って感じで」

 「はい。えと、タカシロ キヨハです、八王子のほうに住んでます。好きなもの、は…」

 好きなもの、そうか、人間って好き嫌いとかもあるんじゃないか。私って感情とか見た目にばっかり囚われていて本質的な中身の部分もしかして空っぽのままなんじゃないかなあ、と少し焦る。未発達だからとショーンは笑っていたけれど、こういう部分も含めての話だったんだなと今更合点がいく。

 「あ、あの、焼き菓子と紅茶が好きです。この辺のことはよくわからないのでいろいろ教えてください、よろしくお願いします」

 咄嗟に日々のお茶会を思い出してマリアのいれてくれた紅茶とかスピカのお菓子を思い出す。なんかお高くとまってるみたいな物言いになってしまってちょっとやらかした感じがする。お菓子でよかったよね、なんで焼き菓子なんて言い方したんだろう。
 反応がないのが怖くて恐る恐る顔をあげてみると一番前の席の女の子がにんまりと笑った。