「ジュンイチ、キヨハからお前の情報が漏れることはない」
「だとしてもっ」
「落ち着け、私がアリシオ先生と話すから呼吸を落ち着けること。…アリシオ先生」
「は、はい、大丈夫ですか?」
「ええ。そのタカシロ レイという少年なんですが代議士のタカシロ マサチカの息子さんじゃないですか?」
衆議院議員のタカシロ マサチカ?
不思議に思って頭の中で顔写真を検索してみる。よくテレビでも街頭演説とかそんなのに出ている気がする。私は高度に政治的な話についていけるほど中身が発達してないけど中学生だって名前くらいは知っているだろう。
古き良き、を重んじながらもセンセーショナルな発言で賛否両論あるおじさんだ。次の選挙も、しばらく先だけどいつだって当選確実だろうと言われているその人だ。そうか、件のレイとやらは有名どころのおぼっちゃんなのか。
「うちのタカシロはその、タカシロ マサチカ氏の長男なんです」
「えっ?」
「そうなの?」
「なんだ、キヨハも知らなかったのか。とはいえほとんど絶縁状態で、まあ彼の私生活に関わるあれこれで折り合いが悪くて、だから弟と聞いて少々動転したようです」
「はあぁ、そうですか、それは…、まあ、別にこちらから特にどうこうっていうのはないですよ。あくまでうちは教育機関ですから」
アカリにもその話をしてなかったのか、あるいはアカリが大して覚えていなかったのかわからないけれど、それは動転するだろう。私だって目の前にいきなりアカリがいたら叫ぶ自信がある。
別に私だってタカシロ レイと友人になったところでジュンイチのことを話さないように言われていたら話したりしない。設定されている家庭環境は「両親は海外を飛び回っていて、ルイさんという叔父に世話になっていて、お仕事が特殊なので、住み込み先に自分の部屋を間借りしている」ということになっている。
なにをこんなに恐れているんだか皆目見当もつかない。怯えたように彼は私を見た。真っ黒な、黒曜石に反射する私の姿。何を見ているのだろう。私か、それとも