「どうだキヨハ、実際見てみるとまた違うだろう」
「すごいのね、全然別の世界みたい。でもこんなにはしゃいでたら変な子って思われそう」
「まあ、そのへんはうまいことやってくれ。友達が出来たら寄り道して帰ってくるとかで知識を入れていけばいいさ」
あらかじめ試験的な外出ができたらそれがベストだったんだろうけれど、いかんせん時間がなさ過ぎた。というのも私が顔を作り直してほしいとわがままを言ったせいでちょっと想定外のロスタイム幅が大きすぎたのだ。悪いことをしたとは思っているけれどそれ以上にあの顔でいることに抵抗がありすぎた。人間じゃない、顔を簡単に変えてもいいならそれは最大限使わなくては。
「ジュンイチ、あれなに?」
「この間CM見たでしょ、アパレルメーカーの広告だよ」
似合いそうだね、とジュンイチは笑う。この顔には、確かに合わせられるかもしれないけれどアカリはあんな服は着ないだろう。気にしすぎなのかなあ、と自分の首から下を見つめてみる。
背格好はずっとそのままだ。平均より少し背が低くて体重も軽くて足も小さくできている。それはアカリがそうだったから。変わったのは顔だけ。中身だって、私のままだ。
「もうそろそろつく頃だな、キヨハ、服装を正しておきなさい」
「はあい」
バックミラーに映る襟元を整えながら、スカートのひだを直す。ちゃんと女子高生に見えればいいんだけど。相変わらず、ジュンイチは振り向きもしなかった。
◆
「タカシロ キヨハの編入手続きにまいりました。タカシロ ジュンイチと申します」
「担当者と校長ですよね、ご案内します」
ぶかぶかのスリッパを履いてぺたんぺたんと廊下を歩く。すこし寒々しく見えるのは生徒がいないからだろうか。今の時間帯は普通に授業中のはずだ。さっきグラウンドでは紺色のジャージでボールを蹴っている男の子たちが見えた。
案内された部屋には校長室という札がかかっていた。壁の上のほうには歴代の校長先生と思しき人たちの写真がならんでいる。外観が綺麗だったから古めかしくは思わなかったけれどそれなりに歴史のある私立らしい。そういえば自分では下調べをなにもしていないな、と今になって思い出した。
「すみません、お待たせいたしました。校長のオシガミです」
「クラス担任のアリシオです」
「担当者のタカシロ ジュンイチです。こちらは所長のルイ・ウォーカーといいます。ウォーカーは、日本語は聞き取れるのですが話すのがあまり達者じゃないので」
「ああ、そうですか、大丈夫ですよ、アリシオの担当教科は英語ですから」
「そうですか、よかった。で、彼女がタカシロ キヨハです、キヨハ、ご挨拶して」
「タカシロ キヨハと申します、製造されてから今日で六カ月と十四日です」
先生方に握手の体勢をとって見せると慌てて立ち上がって手を握ってくれた。触った感触でまた驚いたような顔をするのでおかしくて思わず笑ってしまうと、二人も楽しそうにしてくれる。