「人間を作ろうなんて傲慢な研究だ、でも俺たちはそれを成し遂げたい。そのためのキヨハだ。お前ひとりも人間にできなきゃこの研究は根底から失敗なんだよ」

「えっと…」

「肉体に痛覚をってのは難しい、お前基本的に怪我しないような構造してるからな。でも心が痛くて泣けるのは人間だけだ。今日泣いたんだろ?それはキヨハの自我が心って形まで発達した証拠だ」

 人間にはなれない。人間になりたい。そう思っていたのは私だけだと思っていた。だれも私のことなんかわからない。
 だって、わたしと同じような個体はこの世に一つだって存在しないんだもの。誰に助けを求めればいいかわからない。ジュンイチを頼れないってわかってしまった以上、私になにかを吐き出す場所なんてなくなってしまったのに。

「ルイさん、私は失敗作だった」

「なにを言っているんだ、失敗なんかじゃないさ」

「アカリの記憶と感情をごっちゃにしてた、ジュンイチを好きだって勘違いしたの。私の自我じゃない、この体は私のものじゃないの、アカリに返すべきなのよ」

 二人の目に映る私はまた不細工な表情で泣いている。自分の体なのに、自分じゃないみたい。私ってなんだっけ、私って、本当はどうなれば正解だったんだろう。
 どういう結果になれば研究としては成功だったんだろう。私のシステムって何のために組まれているんだろう。私は、一人なのに。

「学校へやろうかって話は、もう聞いたか?」

「うん、投入実験するんでしょ?ジュンイチが言ってた」

「そこで様子を見よう。いいかキヨハ、なんでベースに生きた人間を使ってるかっていうと、ゼロから心を作るっていうのは私たちには難しすぎるからなんだよ」

「こころ?」

「ああ、ミナヅキ アカリにしたいわけじゃない。私たちはタカシロ キヨハという人間を作りたいんだ。そのために心が必要で、ただ私たちには心をゼロから作る技術がないだけだ」

 心は作れない。いくら外側を似せてみても、声を同じにしても、実体を持たないものを作ることはできない。心とか、感情とか。似せた箱だけならいくらでもできるけど、人が生まれながらに持っている目に見えないそれを模倣するのは理屈だけでは無理なんだろう。自我と心は別のもので、私は自我しかないはずだった。

 ああ、そうか、ずれてると思ってるのはそこか。

 「この分ならもう少し早く投入できるんじゃないか?学校側に通達は出したか?」

 「はい、今週には返事が来るかと思いますよ」

 「六月に編入しても、キヨハなら学力はチートみたいなものだし、問題ないだろう」

 「どうするキヨハ、自力で学習データ積むための領域増やそうか?」

 いたずらっぽく二人はそう笑った。私が悩んでいたことなんてまるでなんでもなかったみたいに。

 「君はまだ子供なんだ、いいかキヨハ。たくさん悩んで息詰まること。それをどうにかしたいともがくことでより一層人間らしくなる。だから自分を失敗作だなんて思わないことだ」