「アカリさんをベースにしようって言いだしたのは、アキトさんなんだ」
「なんで、私の全権がジュンイチにあるの」
「なんでだろうね。アキトさんがそうしたほうがいいって言ったから」
きっと彼は、アカリの心がないことを知っていたんだろうなと思う。気づいていて、それで彼女を失って、亡くしたものをもうこれ以上引っ掻き回すのはできなくて、だからジュンイチを強く責めることもしなかったんじゃないだろうか。だとしたら、私の生まれた理由はなんとなく見当がつく。
「ジュンイチは、私を、アカリにしようとしてたわけじゃない」
「うん?まあ、純粋なAIの発達の研究といわれるとあれなところもあるけど。少なくとも俺の意志でアカリさんをどうこうしようなんて思ってないよ」
「じゃあこれはアキトさんが望んだことなんだね」
「…どういうこと?」
「私をアカリのコピーにしてジュンイチのそばに置くことで、それがあなたたちへの復讐か幸福を優先させたからかはわからないけど」
データの核に「アキト」というファイルが存在する。権限がないので私には開けられないし、それを見つけるためにはシステムを一度分解しないといけないからジュンイチたちもその存在はしらないけれど、これはきっとアキトさんの最後の想いを凝縮したものなんじゃないだろうか。
私をアカリにすることで、救われたかったのか。アカリを奪われた憎しみとか、そういうのではないような気がする。少なくともアカリにとってそんな怖い人じゃなかったのは確かだ。
だからこれは私の主観で行くと、死んで自由になったアカリをジュンイチのそばにおいてあげよう、とかそういう方面のものな気がする。どちらにしても、呪いには違いない。
「ジュンイチもアカリも、もう離れられないようにしたかったのね」
「アキトさんが?」
「あなたたちは、研究者としては優秀なんだろうけど人間としてはどうかしてる」
どうかしてる人たちに、人間なんて作れるものか。ため息がでる。涙が出そうだった。私は人間になんてなれない。なれるわけがない。
「ジュンイチ」
「な、なに」
「もう、あなたは研究をやめたほうがいい、私から手を引くべき」
「嫌だね、だって俺はキヨハのことを」
「あなたは結局私をタカシロ キヨハだと思っていないじゃない」
この人が私を愛していたように見えたのは、結局私を通して向こう側にアカリをみていたからだ。私をどうこうしたのがジュンイチの意志で行われたものじゃないのは予想外だった、とはいえこの人は研究していたものを、私を、タカシロ キヨハを愛してたわけじゃないのだ。
「私、ジュンイチのことを愛していたわ」
「キヨハ、待って何言おうとしてるの」
「アカリの想いか私の想いかわからなかったけど、それでもあなたは私の一番大切な存在なんだって思って、だから自我の発達だってデータを消さないでやってこれた」
「止まって、俺の話を聞いて」
「アカリは嘘をついてない。だから、私はあなたを愛していないのよ」
悲痛そうな顔。ああ、それも記憶の中で見た。アカリにすがっていた時の顔だ、こんなときまで同じ顔をしなくたっていいじゃないか。
私が、自我のあるこの唯一無二の私が、記憶と自我の混同をさせていただけだって気がついたのだからまだ改良の余地があるかもしれないって喜んでほしい。失敗作だったってこの場で壊してほしい。少なくとも私は、結局人間の、まがい物だと証明されただけで、今一番つらいのはこの私だ。それを