徳星病院はここら辺では一番大きな総合病院で、割りと街中にある交通の便利の良い場所に位置している。



私は運転手さんに裏口にまわって貰い、そこで待って貰ってから病院に入った。



見舞いの時間が終わっていても、届け物をするくらいならと守衛さんは、冬野さんのお姉さんのいる3階のナースステーションまで行く許可をくれた。





一人で歩く深夜の病院。



お化け屋敷と選べるなら、この病院の病棟の方が遥かに怖い。




((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル




エレベーターで3Fに上がり、フロアに出てすぐのところにナースステーションがあって、スタッフの人に声をかけるまでもなく、そこには冬野さんのお姉さんが待ち構えていた。




「あっ、さっきの人ごめんね」

「いえ、お気になさらず。お嬢さん、大丈夫ですか?」

「えぇ、さっき熱も引いて、寝付いたから」



私はバッグから、うさぎちゃんのポーチ出してお姉さんに手渡した。

お姉さんはそれを両手で受け取って胸に抱いた。



「本当、焦った。ありがとう。貴方、いつから由貴と付き合ってるの?」

「いいえ、私は臨時の従業員です」



もう驚く事でもない。

勘違いもはなただしい。

お姉さんの息子のひろき君もだったが、クラウンで働いていると、二人はその人を冬野さんの恋人だと思うのだろうか?



だったら、それはマキさんだ。

ん?



もしかして、マキさんって冬野さんの恋人?



もしそうだったら、すごく嫌だ。



でも、もしマキさんが冬野さんと付き合っていても、私には関係のない事には変わりない。



そんな事を考えながら、従業員と答える私に冬野さんはバツの悪そうな顔をしているお姉さんに私は頭を下げた。




「何かすみません」

「え、すまないのはこっちよ。失礼な事言ってごめんなさい」

「え、全然大丈夫です。冬野さんに帰って失礼なくらいです。私みたいなのと勘違いされるなんて」

「はあ? え?」

「私、たまたま冬野さんのお店で1週間だけ働く事になった臨時のスタッフなんで、本当に」



そう本当にそうである。

なのにおこがましくも冬野さんのご家族に恋人と勘違いしてもらえるなんて、余計にお金を払うべき尊大な事だ。



「そうなの? でも、こんな時間に貴方がここまで来てくれるなんて」

「大丈夫です。冬野さん、ひろき君みてないといけないと思ったんで、特に私忙しくもないし、本当に大丈夫なんで」



お姉さんは私を玄関まで見送ると言ってくれたが、お子さんを一人にさせるのが忍びなかったから、ナースステーションで別れる事を申し出て病院を後にしてタクシーに戻った。最初に冬野さんが指定していた私の自宅への道すがら、途中で大変な事実に気が付いた。



このタクシー、私の家に向かっていない。



タクシーの向かった先はどう言う訳か、私がタクシーに最初に乗り込んだ冬野さんのお店、クラウンだったのである。



「着きましたよ」

「え?」



クラウンの店の前に止まったタクシーの後部座席できょとんとする私を尻目に、運転手さんは後部座席のドアを開けた。

そして開いたドアの先には冬野さんが、無表情で立っていて、私の事を見下ろしている。




「冬野さん?」

「忘れ物」



冬野さんはそう言って右手に私のスマホをちらつかせた。



「あ、私のスマホ」

「そう、君のスマホ」



しまった。

全然気づかなかった。



帰りがけに電話を取った時にその脇に自分のスマホを置いていた。



「ごめんなさい」

「ごめんじゃないよ。説明して、なんで何も言わないで姉さんの病院に保険証と財布の入ったポーチ届けに行った訳」

「あ、えっと。ごめんなさい、冬野さん、ひろき君みてないといけないかな?っと思って、ついおせっかいを」

「話は後でするから、今日はこのまま帰って、運転手さん悪いけど、最初の目的地まで彼女をお願いします」



冬野さんは私にスマホを返して、後部座席のドアをしめようとした。

けれど、運転手さんは驚いてそれを制した。



「すみません。これから予約が入っているので、もうこれ以上はちょっと」



私はそのままタクシーを降りるしかなく、機嫌の超絶悪そうな冬野さんとその場に二人立ち尽くすしかなかった。



「私、これから用事があるんで、失礼しま」「ふ~ん。歩いて帰るのが予定なら、帰さないからね」



おっと、なんで分かったかな。



面倒な事、厄介な事からは極力逃げるがモットーの石崎 誠です。



お願い私を返して下さい。