スライスしたレモンから丁寧に種を抜き、煮沸した瓶に入れて。
ひたひたになるまではちみつを注いだら、出来上がり。
お湯や水で割って良し、酒で割って良し、そのまま食べて良し。
私の無人島に持っていきたいベストテンの一つ。
例え、私の人生、薄っぺらですっからかんでも、かまわない。
一生、恋人居なくて、一人でもかまわない。
無理して恋愛なんてしない。
はちみつレモンがこいびとで良い……。
私は欲張らない。
身の程は弁えている。
私が世界に望むことなんて、そうない事だ。
いつか、どんな大事なものを失っても、それだけは私から取り上げないで。
はちみつレモンさえあれば、それで良い。
「石崎さん、付き合っている人居ないの?」
不意に、蘇る古い記憶に胸抉られても。
まだ、記憶から呼び戻せばはっきり思い出せる、王子様のようなあの人の事がが好きだった。
「私、はちみつレモンがあれば大丈夫です」
あの人との最後の会話。
かろうじてまだ思い出せる。
彼が会社を辞める送別会の時。
格好良かった、優しかった、素敵だった。
何より好きだったな……、私の王子様。
もう、一生会えなくても良い。
けど、もう少しだけ、いつか忘れるその日まで、わたしの記憶で踊って欲しい。
いつかちゃんと忘れるから。