「どうしたんですか 石崎先輩。営業一課の課長から直電とか、トラブルですか?」



「分からないけど、今から来いって。何だろう? 」



私は席を立って、課長席に行き、離席の旨を伝えて、営業一課へ向かった。





営業一課は自分が居るフロアの東に営業室があり、西側のフロアは西陽がさすので昼から夏はブラインドを閉めていても暑くてあまり好きではない。



営業一課のフロアに入ると、女子社員がこぞって何かを取り巻いて居て、呼びつけられて普段滅多に出入りしない私の存在は丸無視だった。




課長席に行き、課長にお待たせしました、と頭を下げると、課長はにっこり微笑んで私に言った。



「ごめんね、仕事中に呼び出して。おーい、呼んだよ。石崎さん」



課長は女子の取り巻きに向かってそう声をかけた。



今まで全く意識されてなかった女子の取り巻きの視線が私に向けられる。




皆、きっとにらむ様な視線に感じるのは、気のせいだろうか。ここに居る女子のほとんどは社内でも指折りの綺麗所だったり、仕事に一際意識高かったりと、マキさん含めあまり得意ではない。



そんな女子の取り巻きを掻き分けて、冬野さんに

良く似た男の人がやって来る。



「課長わざわざスミマセン。じゃ、石崎さん借りますね」




「あぁ、お安いご用だよ。石崎さん。彼ね、ここに寄ったついでに、どうしても君に会いたいって言うもんでね」



「はっ!!」



冬野さんは一歩後ずさる私のとなりにやって来て、私と並んだ。



「恩に着ます。 彼女中々忙しいから、いつも来ませんからね」



「あぁ、他のメンバーはお前が顔見せると呼んでもないのに、仕事ほっぽりだして顔出すのにな。すまんな、企画書の手直しなんていまだに頼んで」



「いいえ、良い小遣い稼ぎですよ」



「いつ戻ってきても良いんだぞ。非常勤でも歓迎だからな」




「はは」



冬野さんは課長に愛想笑いしながら、私の方に視線を向けた途端、視線の温度が冷たくなった気がした。