――それは、私・巻田ナミの作家生活が四年目に突入した四月のある日の夕方のこと。
私が代々木の商店街にある書店〈きよづか書店〉でのアルバイトを終えて自宅マンションに帰ると、玄関前に一人の男性が立っていた。
「――あ、ナミ先生。アルバイトお疲れさまです」
「原口さん……」
彼は大手出版社・洛陽社の文芸部門の社員で、文芸レーベル〈パルフェ文庫〉の若き編集長、原口晃太さん(二十九歳)。私の担当編集者であり、五つ年上の彼氏でもある(!)。
「今日はどうしたの? 合鍵あるんだから、上がって待っててくれてよかったのに」
「そうはいきませんよ。今日は仕事で来たんですから」
「……仕事?」
この人は、プライベートでこの部屋に来た時には遠慮なく合鍵で上がり込む。ただし、仕事の時は私の帰りをひたすら待っている。オンとオフの切り替えがキッチリできているのはまことに立派なことだけど、あまりにも両極端すぎて私は呆れるばかりだ。
私が代々木の商店街にある書店〈きよづか書店〉でのアルバイトを終えて自宅マンションに帰ると、玄関前に一人の男性が立っていた。
「――あ、ナミ先生。アルバイトお疲れさまです」
「原口さん……」
彼は大手出版社・洛陽社の文芸部門の社員で、文芸レーベル〈パルフェ文庫〉の若き編集長、原口晃太さん(二十九歳)。私の担当編集者であり、五つ年上の彼氏でもある(!)。
「今日はどうしたの? 合鍵あるんだから、上がって待っててくれてよかったのに」
「そうはいきませんよ。今日は仕事で来たんですから」
「……仕事?」
この人は、プライベートでこの部屋に来た時には遠慮なく合鍵で上がり込む。ただし、仕事の時は私の帰りをひたすら待っている。オンとオフの切り替えがキッチリできているのはまことに立派なことだけど、あまりにも両極端すぎて私は呆れるばかりだ。