私はカーブを曲がった瞬間、一瞬目を閉じた。目を開けた時、その場所に幽霊はいなかった。

「ブラウン・シュガー」が終わった時だった。何やら拍手が聞こえる。このCDはライブ盤ではないし、曲の終了時に拍手の音なんか入ってなかったはずだ。拍手の音は、ロックには合わないような寂しげな弱弱しい響きだった。

 バックミラーは、後部座席が見えないように、わざと角度を変えていた。この付近を通った時、バックミラーを見たら、後部座席に白い着物の女が乗っていという、噂話をよく聞いたからである。

「出たーーーーーーーーっ」と思ったが、振り向くことが出来ない。後ろの気配を気にしながらも、恐る恐る運転していた。

 曲が「ホンキー・トンク・ウィメン」に変わって、しばらくすると、

「ワタシ、この曲大好きなの」と、女の声が言った。