いや、「ね？」と言われても。

　若干引いたのを察したのか、井浦さんは「そんなことより！」といって話を戻す。

「明日は休みなんだけど、先約があったんだ。ごめんね」
「……もしかして、彼氏さんですか？」

　私がそう問うと、井浦さんの表情が一瞬固まった。

　何か不味いことを聞いてしまったのではないかとハラハラしていると、空気を読まずに入ってきたウエイターが雑にコーラをテーブルに置いた。
　それをテーブルの端に移動させると、井浦さんは困った顔をして言う。

「友達、かな。面倒臭いけど、近くにいないと気になるっていうか」
「〜〜っ！」

　今にも叫びそうな勢いをどうにか抑え込んで悶える私に、井浦さんは小さく息を吐く。

　誤魔化したと思っているだろうけど、頬を赤らめていたのを見逃してないからね！

「とにかく、明日から頑張ってね」
「はい！　井浦さんも明日、彼氏さんと楽しんでください！」
「いや、だから違うって。……でも、楽しみにしているね。瑞奈ちゃんの作ったアップルパイ」

　井浦さんはそう微笑んで、また通りすがりのウエイターに、今度はジンジャーエールを注文する。

　テーブルの端に置いたコーラはいつの間にか空になっており、グラスには寂しそうに溶けかかった氷だけが残っていた。