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井浦さんは不思議な人だ。
誰もいない方向に顔を向け、様々な表情を浮かべたり、声をかけたりと、不可思議な場面を何度か見かけたことがある。
何か見えるのかと聞けば、いつも「何でもない」とはぐらかされてしまう。
その日の夜、普段により早めに退勤した私は、井浦さんと待ち合わせてイタリアンカフェに入った。
何品か適当に注文し、取り分けて食事をする。
週に何回か、決まって井浦さんと夕食を一緒にするのが日課になっていた。
店舗限定メニューのレシピ作成の話を貰ったことを井浦さんに話すと、食べていた手を止めて喜んでくれた。
「そっかぁ。今年の秋は瑞奈ちゃんが作ったデザートが店に出るんだね」
「そうなんです! もう……めっちゃ嬉しい!」
言葉で表せないほどの喜びを幼稚な言葉で伝えると、井浦さんは微笑んだ。
途中でドリンクを何にするかと聞いてきたウェイターに「すみません、ジンジャーエー……いえ、コーラください」と注文する。
途中で苦い顔をしたのは気のせいだろうか。
「それで、アップルパイだっけ? どうするの?」
「うーん……とりあえず明日、専門店とか巡ってみようと思います。あ、井浦さんも一緒にどうですか? 確か休みでしたよね?」
「明日は空いて……いっだ!?」
突然、悲鳴と共に井浦さんの頭ががくんと下を向いた。
まるで誰かに叩かれたような動きに驚いていると、彼女は後頭部を擦りながら笑って言う。
「な、何でもないよ! ちょっと静電気が……こう、バチバチって」
「静電気……?」
「そう、静電気。乾燥の季節が近づいてるからさ、ね?」
井浦さんは不思議な人だ。
誰もいない方向に顔を向け、様々な表情を浮かべたり、声をかけたりと、不可思議な場面を何度か見かけたことがある。
何か見えるのかと聞けば、いつも「何でもない」とはぐらかされてしまう。
その日の夜、普段により早めに退勤した私は、井浦さんと待ち合わせてイタリアンカフェに入った。
何品か適当に注文し、取り分けて食事をする。
週に何回か、決まって井浦さんと夕食を一緒にするのが日課になっていた。
店舗限定メニューのレシピ作成の話を貰ったことを井浦さんに話すと、食べていた手を止めて喜んでくれた。
「そっかぁ。今年の秋は瑞奈ちゃんが作ったデザートが店に出るんだね」
「そうなんです! もう……めっちゃ嬉しい!」
言葉で表せないほどの喜びを幼稚な言葉で伝えると、井浦さんは微笑んだ。
途中でドリンクを何にするかと聞いてきたウェイターに「すみません、ジンジャーエー……いえ、コーラください」と注文する。
途中で苦い顔をしたのは気のせいだろうか。
「それで、アップルパイだっけ? どうするの?」
「うーん……とりあえず明日、専門店とか巡ってみようと思います。あ、井浦さんも一緒にどうですか? 確か休みでしたよね?」
「明日は空いて……いっだ!?」
突然、悲鳴と共に井浦さんの頭ががくんと下を向いた。
まるで誰かに叩かれたような動きに驚いていると、彼女は後頭部を擦りながら笑って言う。
「な、何でもないよ! ちょっと静電気が……こう、バチバチって」
「静電気……?」
「そう、静電気。乾燥の季節が近づいてるからさ、ね?」