「オイオイ……こんなお荷物にやらせる気か? 限定とはいえ、店の看板に出すメニューだぞ。もっとマシな奴にやらせろよ」
「あのね……坂水だってもう三年目だし、オーダーを一人で捌けるようにもなった。メニュー考案くらいやらせるべきだわ」
「俺は反対だ。なんでコイツが作ったメニューを店に出す必要があんだよ、まともなモン作れねぇくせに」
「今は意見として受け取っておくけど、人の力量をバカにして、自分のことしか考えないあなたに決める権利はないわ。どうしても坂水のレシピが嫌なら、その髭を剃り落として出直しなさい」

 二人の間にバチバチと火花が散る。

 田辺さんと佐保さんはこの店がオープンした時からずっと一緒らしい。
 年齢関係なしに言い合える関係だとは聞いていたけど、まさかここに巻き込まれるとは……。

 流石に佐保さんの目で察したのか、田辺さんは両手をあげた。

「こわ。ジョーダンだって。お前を敵に回したくねぇんだわ、な?」

 勘弁勘弁、と呟いて田辺さんは持っていたファイルを私に押し付けると、元来た方へ戻っていった。

 私が唖然としていると、佐保さんは微笑んで言う。

「田辺の言ったこと、気にしなくていいからね。坂水の作りたいアップルパイを私に教えて。その後、一緒に考えましょう」
「……はい。ありがとうございます」

 そう答えると、佐保さんはどこか安堵した笑みを浮かべると、先程のアップルパイの話に戻った。

 話を聞きながら、ふと田辺さんの言葉を思い出す。
 私のせいで佐保さんに嫌な思いをさせてしまったことが、とても心苦しかった。