「遅かったわねぇ坂水ぅ……。大丈夫だったぁ?」

 佐保さんがビールジョッキを持ち上げながら私に言う。
 居酒屋に到着すると食事やお酒は進んでおり、店全体がほろ酔い状態だった。
 井浦さん曰く、佐保さんは三杯目のビールに突入しているらしい。
 
「楽しんでお酒が飲めるならいいですよね」
「そうだね。……私達、お酒飲めないからわかんないけど」
「あれ、井浦って飲めなかったっけぇ?」
「飲めなくはないですけど、基本避けてます。あ、コーラください」
「すみません、ウーロン茶も!」

 通りすがりのウエイターにドリンクを注文して、私も席に着く。
 井浦さんは既に出来上がっている佐保さんの元カレへの愚痴を聞いて、適当に相槌を打っていた。

「井浦の奴、適当に放っておけばいいのに……」

 呆れた顔をして洒落たビール瓶を持ってやってきたのは、この食事会の主役、田辺さんだった。
 周りの社員も盛り上がっているようで、席を追いやられてしまったらしい。

「田辺さん、もう体調はいいんですか?」
「あ? んなもん、とうの昔に全快してんだ。……ま、明日は朝からだから程々にするけどな。それよりほら、早くメシ食えよ。空きっ腹に酒なんて入れたら、一気に酔うぞ」
「ウーロン茶で酔えたらいいですね。お言葉に甘えていただきます!」

 田辺さんに促されて、目の前にあるおつまみや、ご飯を食べる。
 思っていたより空腹だったらしく、どんどん皿の上がきれいに無くなっていった。

 それを横でずっと見ている田辺さんが、神妙な顔をして口を開く。

「なぁ、これを佐保や他の奴らに話したら夢だって笑われたんだが、お前も聞いてくれるか?」
「……なんでしょう?」

 唐揚げを飲み込んでから、私は田辺さんに向き合った。 
 田辺さんはぼんやりとどこかを見つめたまま、ゆっくりと話し出す。

「気付いたら火の中に飛び込んでたんだ。ジイさんたちが落としたペンダントは案外すぐ見つかってよ、戻ろうとしたら転んで、柱の下敷きになってさ……死ぬんだろうなって諦めたんだ。そしたら、誰か目の前にいるんだよ。早く逃げろって言ってんのに、ソイツは屈んで、俺の顔を見て言うんだ」

 ――『最期の通達はいつがいい? 決めさせてやるよ』

「不気味な奴だったな。顔はよく見えなかったけど、ピアスをした金髪のガキだった気がする。おまけに人を見下して変な笑い方までしやがって、腹が立ったから言ってやったんだ。『今じゃねぇ』って」

 そこからの記憶はなく、気付いたら病室で寝ていた、と話を一度止めた。