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 それからというもの、田辺さんは人が変わったように仕事に励んだ。
 たまに口が悪くなる時はあるけど、表には一切出すことはない。
 いつも来てくれる常連の老夫婦から褒められる程、田辺さんの仕事への姿勢は大きく変わっていった。

 こんなに真面目に取り組んでいる姿を見て、会社の人はおろか、佐保さんまで驚いていた。
 もしかしたら異動、または退職するからなのでは、という噂も出ていたが、本人がキッパリと否定した。

「ただ、やり残したことは無いようにしたいだけ」だと、なんとも最後のように話す彼の表情は、どこか寂しそうに見えた。

 そして、店舗限定の秋メニュー、アップルパイは改良を重ね、シナモンを加えたリンゴのコンポートとカスタードクリームをパイ生地で包み、ナイフを入れた途端に広がる香りも楽しんでもらえるものとなって完成した。

 初日からデザートだけは売れていき、会社からも褒められたという。
 ただ、仕込みに時間がかかるため、朝に仕込んでも昼過ぎにはすべて出てしまい、お断りしてしまうことも増えてしまった。

「パイの切り出しを大きくして、半分に織り込めばどうかしら?」
「そうですね……包んだ上からでも切り込みは入れられますし」
「クリームの質は落ちるが、冷凍にするもの考えてみるべきだな」

 様々な改善案を、田辺さんは積極的に出してくれる。
 最近では納品物の片付けまで手伝ってくれて、これには他のスタッフも驚きを隠せずにいた。

 田辺さんの印象が変わっていくにつれ、店の雰囲気も良くなってきたのがわかる。
 皆が活き活きと仕事をしている環境が、とても素晴らしいものだと思った。