「坂水! 俺が悪かった、今まで本当にごめん!」
「……えっと……え?」

 謹慎明けの一週間後、久々に顔を出した田辺さんに、私は動揺を隠せなかった。

 まず、トレードマークだった髭がきれいに剃られ、しっかりマスクを着けている。
 それだけでなく、今まで人を「お荷物」だと言って散々悪口言ってきたのに、面倒臭がる様子もなくしっかり頭を下げて謝ってきたのだ。
 しかも呼ばれたことのない、苗字まで添えて。

「あの、田辺さん……変なキノコでも食べました?」
「食べてねぇよ! ……ただ、本当にやりすぎたと思ったから謝ってるだけだ」

 田辺さんは頭をあげて、更に続けた。

「お前がどうしても昔の自分と重なって見えるんだ。あの時の俺は何もできなくて、いつも先輩に怒られてばかりだった。作業が遅いお前を見てるとどうしても腹が立って、ついイライラしてお前に当たってた。……完全な八つ当たりだ。お前が使えないって言っている割に、自分が使えないんじゃぁ、意味がねぇ」

「もしかして、髭を剃ったのは……」
「けじめだよ。クサいとかいうなよ」

 それじゃあ、と言ってキッチンから出ていく。
 呆然とその後ろ姿を見ていると、佐保さんが小さく笑いながら言う。

「謹慎中に剃ったらしいんだけど、頭までバリカンで刈ろうとしてたから、流石に止めたわ」

 ホールにスキンヘッドが居てもおかしくはないけどね、と後付けすると、思わず私も笑ってしまった。