今日のシフトは昼から閉店までの遅番だ。
 身支度を整え、書き直したレシピが入ったファイルを持って店に行くと、何日かぶりに会う佐保さんが扉の前で困った顔をしていた。

「佐保さん、お疲れ様です」
「え? ああ、坂水。お疲れ様」
「……って、これ……どうしたんですか?」

 佐保さんが目を向けていた先には、段ボールに詰め込まれたホールトマトやオリーブといった缶詰、冷凍食材が消費しきれないほど大量に置かれていた。

「朝来たら、業者が大量の段ボールを置いててね。こんなにあっても使いきれないし、確認を取ったうえで返品や他の店舗にまわすことになったの。これは返す分なんだけど、念のために納品書と照らし合わせてたのよ」

 ほら、と言って佐保さんが差し出した納品書を受け取る。
 そこには私が昨晩入力した数字に、一桁追加された数字が並んでおり、発注担当者の名前に書かれていたのは紛れもない、私の名前だった。

「な、んで……?」

 一気に体温が下がって、心臓がずしん、と落ちる感覚がした。
 確かに発注したのは私だとはいえ、こんな数字の入力間違えをするとは思えない。
 でも昨晩の記憶が曖昧な私に、完全に否定できる根拠がなかった。

「さ、佐保さん……わた、わたし……っ!」
「坂水? ちょ、大丈夫?」

 目頭が熱い。涙をこらえていた私の顔が大層酷かったのだろう。
 佐保さんは焦った顔をして私の背中をさすってくれる。

 こんなに優しい人の期待を裏切ってしまったかもしれない。
 心臓にトンカチを投げつけられた衝撃が襲い掛かってくる。

「お疲れ様で……瑞奈ちゃん?」

 丁度そこに、同じ昼からの出勤になっていた井浦さんが通りかかった。
 佐保さんが同じように説明すると、井浦さんは納品書をじっと見つめた。

「発注担当者の履歴なんて誰でも変えられますし、この間まで佐保さんの名前で発注かける子もいました。彼女だけの責任とは言い切れません」
「それはそうだけど……じゃあ、この大量に注文したのはいったい……?」
「……瑞奈ちゃん、昨日の営業後にあったこと、覚えている限り教えてくれる?」