『努力すれば報われるっつー話はよく聞くけど、頑張りすぎると早死にしちまう。程々にしとかないと自分に返ってくるぞ』

 くはは、と目の前で少年が笑った。

 綺麗に染まった金髪と、左耳に揺れる黒の二連ピアス。ブレザーの制服を着た少年は、意味深な笑みを浮かべてこちらを見ている。

 問いかけようとするも、口が開かない。
 ……いや、開けなかった。

 この空間には人どころか、何もない真っ黒な光景が広がっている。何ともいえない重圧感で口を塞がれているようだ。

 黙っている私に、少年は言う。

『お前さ、こんな不公平な生き方してて辛くない? 報われたくない?』

 辛いよ。報われたいよ。でもそんな簡単にできる訳がない。

『じゃあ、俺と一緒に行く? まぁ、死ぬって意味だけど』

 死?

『そう。死んじゃえば何も考えなくて済むし、こんな世界からサヨナラできる。理不尽で惨めな今の状況を考えたら、ちょっとは逃げるのだって悪くないじゃん? 誰も咎めないし、良いアイディアだろ?』

 ニコニコと笑う少年が手を差し出す。
 喧嘩をした後のような、傷だらけの大きな手だった。

「……逃げたら、私は何を得るの?」

 ようやく開いた口で私が問うと、少年は寂しそうに笑った。

『何も得ないさ』