翌日、私は一人で町に出ると、事前に目を付けていたケーキ屋さんやカフェに行って、片っ端からアップルパイを注文した。

 ごろっとしたリンゴのコンポートが入ったものや、見栄え重視で、皮つきのリンゴを重ねてバラに見立ててパイの上に置かれたもの。

 中に入っているカスタードクリームも、店舗によってそれぞれ味が異なる。卵の香りが強いもの、バニラ風味のもの。
 舌触りも違った。温度によって変化するクリームも、楽しみ方の一つだろう。

 一日で六件ほどまわることができ、ノートにはそれぞれの特徴をメモして、お店の許可を貰って写真も撮る。
 いつかは自分だけのグルメ本が作れるかもしれないと思うと、それはそれで楽しみだった。

 お腹がいっぱいになったところで、散歩がてら八百屋に足を向けた。

 家の近くにあった『八百屋きしたに』には、季節ごとに棚が大きく入れ替えされていて、見ているだけでも楽しい。
 
この時期は食欲の秋と謳うだけあって、芋栗南瓜が揃って陳列していた。

 果物のコーナーには桃やブドウが置かれ、お目当てのリンゴが三種類ほど置かれている。

 赤くツヤのあるリンゴは、どれも美味しそうだ。
 これを使ってコンポートを作ったら、どんなものが出来上がるだろう。

 リンゴをじっと見てると、仏頂面のおじさんがくし形に切られたリンゴを突き出してきた。

「お客さん、ご試食いかが?」
「あ……ありがとうござい、ます」
「それは今ある中でも一番蜜が入っているリンゴで、丸かじりには最高さ。んでそこの……」

 仏頂面のおじさんは、一つずつ丁寧に説明し、すべて試食をさせてくれた。
 見かけによらず優しい人だと感動して、私は三種類を二個ずつ購入する。

「ありがとよ。リンゴ、そんなに好きなのかい?」
「好きですよ。アップルパイを作ろうと思って」
「なるほどねぇ。頑張れよ」