地面に落下したダーシャは必死に身体を起こそうとする。しかし、力が入らない。視界もぼやけ始めている。
 倒れたダーシャに大量の触手が迫って来る。クラーケンドラゴンから離れようとしても這う力すら出す事が出来ない。
 その時、リリの防壁が現れダーシャを触手から守った。
 ウォリーが駆け寄って行き、ダーシャの身体を背負う。

「ダーシャ! 大丈夫!?」

 ウォリーはダーシャを背負ったまま安全な場所へ移動するために走った。

「魔力切れのようだ……」
「マジックポーションは!?」
「駄目だ……全て使い果たしてしまった……私はここまでだ……」

 逃げるウォリー達の背後から地響きが鳴る。クラーケンドラゴンの足音だ。

「あいつ追ってきます! どうしましょう!」
「ダーシャはもう戦えない。残念だけど、撤退しよう!」

 ウォリーにとって、クラーケンドラゴンを倒す事よりもダーシャの安全確保が重要だった。
 リリは時々防壁を出してクラーケンドラゴンを足止めする。しかし、それでもウォリー達を追い詰めつつあった。

「ウォリー……息切れをしているぞ……」

 ウォリーの背中にぐったりと身を預けながら、ダーシャは言った。
 ウォリーの走る速度が遅くなっている。その原因は自分を背負いながら走っているせいだとダーシャは分かっていた。

「ウォリー、私を置いていけ。このままでは……全員奴の餌食だ……」
「何言ってるんだよ! そんな事出来ない!」
「私を背負いながら逃げ切るのは無理だ……皆の足を引っ張りたくない……頼む……」

 ウォリーは足の力を振り絞り無理に速度を上げた。

「大丈夫だ、必ず、必ず逃げ切るから!」
「ウォリー……私は悔いは無い。君は魔人族の私にも平等に接してくれた……君のような人が居ると知れただけで……この国に来た甲斐があった……私は君に未来を託したい。だから……私をここに置いて行ってくれ……」
「駄目だ! 絶対にダーシャを守る!」

 そう返すウォリーだったが、彼自身もどんどん体力が無くなっていく。
 もうすぐ近くまでクラーケンドラゴンは迫っている。
 ウォリーはがむしゃらに両足を動かした。しかし、その足がもつれて彼は大きく転倒してしまった。

「ウォリーさん!」

 焦ったリリが防壁でクラーケンドラゴンを足止めする。
 触手が防壁を攻撃し、ヒビが入る。
 リリの足止めは長く持ちそうにない。

「早く私を置いていけ……それで皆助かる」

 ダーシャに言われ、ウォリーは唇を噛み締めた。頭を左右に振り、再びダーシャを担ぎ上げようとする。
 しかしウォリーが立ち上がるよりも早く、防壁が砕かれてしまった。
 クラーケンドラゴンが再び歩き出そうとする。
 その時、矢の形をした電撃がクラーケンドラゴンの頭部に連続して撃ち込まれた。

「私が何とか気をそらすわ! だから早く逃げなさい!」

 電撃を撃ち込んだ主、ハナが敵の前に立ちはだかった。
 リリもハナの隣で新たな防壁を作り出そうとしている。

「馬鹿が……お前達も早く逃げろ……」

 虚ろな目をしたダーシャが、呆れたように言った。
 ダーシャの願いと反して誰も彼女の側を離れようとしない。

「絶対に皆無事で、この森を抜け出す!」

 ウォリーが自分に言い聞かせるようにそう叫んだ。
 その時、ウォリーの頭の中で声が聞こえた。


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