≪解呪マン≫

≪対象に触れ、「解呪マン」と唱える事でその対象の呪い状態を解く事が出来る。取得の為に必要なお助けポイント:100000ポイント ≫



(10万ポイント!? そんな……今の僕のポイントは98700。僅かに足りない……!)

 ウォリーは焦った。
 男の話が本当ならあと少しでハナは死んでしまう。
 ウォリーに手段を選んでいる時間はなかった。

「ぐはぁ!」

 ウォリーは力を込めて目の前の男を殴りつけた。

「彼女を治せ」
「ふふふ、俺を拷問する気か? 痛めつければ言う事を聞くと思うのか? 拷問とはじっくり時間をかけてやるものさ、だが、見てみろ。あの女はもうすぐ死ぬ。そんな悠長な事やってる時間はねえ筈だぞ」

 ウォリーがハナに目を向けると、彼女の首から黒い血管のようなものが浮かび上がっていた。それは彼女の身体を這うようにして大きくなっていく。

「早く治せ! もしハナが死んだら、お前を殺す!」
「ははは! やってみろ。俺は脅しに屈するような奴じゃない」
「ウォ……リー……」

 ハナが荒い息で苦しそうに言葉を発した。

「私に……構わないで。そいつを捕獲する……の……それが、私達の……使命……」

 ハナがそう言っても、ウォリーは動けないでいた。悔しそうにハナと男を交互に見る。

「駄目だっ! このままだとハナは死ぬ……」

 ウォリーは男を掴んだまま物真似マンを発動させた。
 以前ダーシャが怪物にされた時、この能力のお陰で助ける事が出来た。
 確証は無かったが兎に角何でも試してみるしかなかった。

「これは……こいつのスキルは……」

 ウォリーは絶望した。
 男のスキルをコピーした事でスキルの詳細を知る事が出来た。
 彼のスキルは『千里眼』
 周囲の敵の位置を探知出来るスキルだ。隠れていたウォリー達を発見出来たのはこのスキルのお陰だったという事だ。
 このスキルでは呪いを解く事は出来ない。

「くそっ……」

 ウォリーは悔しそうに歯を食いしばった。

「助けてやろうか?」
「え……?」
「その女、助けてやってもいいぞ」

 男はそう言って不敵な笑みを浮かべた。

「ただし、条件がある」
「な、何だ……?」

 ウォリーが男に問うと、男の拳が飛んできた。
 顔面に拳がめり込み、ウォリーは転倒する。

「ぐっ……」

 鼻から血をだらだらと流しながら、ウォリーは男を睨んだ。

「今からお前は無抵抗を貫いてみせろ。そしたら、女の呪いを解いてやる」

 男はそう言って足元で倒れているウォリーを蹴りつけた。

「あぐっ!」

 男のつま先が腹に入り、ウォリーは苦しそうにうずくまった。
 その背中を男はさらにガンガンと踏みつけた。

「さっきお前に殴られてよ、ちょっとムカついた。この鬱憤を晴らさねえと女を治す気にはならねえんでな」

 男はウォリーの髪を掴み、強引に上半身を起こさせる。
 そしてウォリーの顔に再び拳を叩き込んだ。

「ぅぐぁっ!」
「ウォリー……何、やってんの……反……撃……しなさいっ」

 苦しそうに倒れるウォリーを見て、ハナが声を絞り出した。
 それでもウォリーは動こうとしない。どうやら男の言う通り無抵抗でいる気らしい。

「私の事は……気にするな……って、言ってんで……しょ」

 弱りつつある身体に怒りを込めて、ハナはウォリーに訴える。
 ハナは自分の死を覚悟していた。
 元々自分が攻撃を躊躇ったのが原因だ。自分の責任は自分で取るつもりだった。
 しかし、それをさせてくれないウォリーに苛立ちを覚え始めていた。

「あんた……って、いつもそう……そうやって……すぐ人を助けようと……」

 ハナがそう言っている間にも、ウォリーは男に嬲られ続けている。
 男の足が、ウォリーの腕を勢いよく踏みつけた。
 鈍い音が響く。

「ああああああ!!」

 ウォリーは大きく悲鳴を発した。
 腕の骨が折られた。それはハナの目から見ても伝わった。

「ウォリー……何でそこまで……するのよ。あんたが……レビヤタンに居た時……私があんたにした事忘れたの?……私が……憎くないの?……放っておけば……いいじゃない……私なん……て……」

 ハナは必死でウォリーを説得しようとするが、自身の身体も限界が近づいてきた。力が入らなくなり、声を出すのも苦痛になってくる。

「はぁ、スッキリしたぜ。こんなもんでいいか」

 男は満足したようにボロボロになったウォリーを見下ろした。

「はやく……ハナを助けろ……」

 苦痛に耐えながらウォリーが言った。
 しかし、男は嘲笑うような目をウォリーに返してきた。

「おいおい、まさか本気にしてたのか?そんな約束守るわけ無いだろ」
「そん……な……」

 男は笑いながら足元の剣を拾った。

「敵を回復なんてしたら俺が危ないっつーの」

 ウォリーは痛む身体をずるずると引きずり、必死でハナの元に這い寄って行く。
 既に黒い血管のようなものはハナの全身に広がっていた。
 ウォリーは力なく倒れるハナに腕を伸ばし、彼女の手をそっと握った。

 その背後から、男が剣を手に近づいて来る。
 そして倒れているウォリーに向かって、剣を振り下ろした。