駅まで着いて、
“じゃあね”と離した手が寂しかった。
「ありがとうございました……。」
宗馬先輩に目を合わせられなくて、俯いたまま手を出して。
『送っていこうか?』という宗馬先輩の声にハッとした。
「いえ、もう…大丈夫です。カバンも…すいません。ありがとうございました。」
リュックとカバンを受け取って背負い直し、
『でも…。』
「大丈夫です。」少しだけ笑顔を見せた。
大丈夫。寂しくなってしまうかもしれない。でも、自分で立っていないと…。
頼ったら…私はずっと誰かに頼らないと立っていけなくなるかもしれない。
だから、頑張らないといけない。
埜々香と進先輩が心配そうな顔をしていても。
迷惑かけたらダメ。
「大丈夫です。心配しないで。
向こうの駅に着いたら、兄に迎えに来てもらいます。」
『…お兄さんいるの?』
「はい。年は離れていますが、双子の兄が。
…私とよく似てますよ。顔も性格も…。」
双子の兄の顔が浮かんだ。
いじわるだけど、心配してくれる。多分?優しい兄達。
-帰ったら…なぐさめてくれるかな……?-
俯いた時、電車のアナウンスが聞こえて。
「…帰ります。先輩…。
今日はありがとうございました…。」
宗馬先輩の少し後ろにいる埜々香と進先輩に、影からひょい!っと顔をみせて、「ありがとう……埜々香。進先輩。また明日ね。」と、手を振り
くるりと振り返らず走った。
早く帰りたかった。
振り向いたらすがりたくなる。-そればダメ。-
本当はちょっと泣きたくなってた。-泣かない。-
いつもの強気が、まだ出せないけど。
大丈夫。まだ大丈夫。きっと大丈夫。
まだ、私にはバレーがある。
多分……埜々香が一緒にいてくれる。
-多分?-
「……」口唇を噛んだ。
本当は、大丈夫じゃない。
本当は、ダメ。
本当は、苦しい。
本当は、……また泣いてしまう。
本当は……本当は…
1人になりたくない……。1人は……怖い…。
改札を足早に通り過ぎた。
駅のホームに着いた時には何故か涙があふれそうで…
慌てて俯くと、ホームにポタポタと涙が落ちた。
-今日はもう、ダメだ。私。-
電車が入ってきたと感じ、顔を上げたら、……電車が止まると同時に目の前に制服のブレザーが入り込んできていて。
あっ-…っと顔を上げた瞬間に誰だかすぐに分かった。分かった瞬間にはもう、自分で抱きついて泣いていた。
「先輩…ごめんなさい…」
『…うん』
「本当は大丈夫なんて…嘘。」
『…知ってる』
「今日は…もう、なんか…ダメです。」
『知ってるよ。』
背中に手を回してしがみついていた。
ぎゅーって、私の頭を…泣いているのを隠すように。
震えてる肩を隠すように静かに抱きしめてくれた先輩。
-…あー今日はダメだ。私。-
…何で?泣いているのかも分からない
誰かにすがりたいよ……。
…疲れたよ。
しばらくグズグズと抱きついていた私も、
『電車…次は、何時?』
と、先輩に聞かれてゆっくり時計を見上げた。
「19時半です…。」
『あと、30分あるね。座ろうか?』
と、体を離されるも…寂しくて…また自分から抱きついていた。
イヤだった。人恋しかった。
「……。」
『……ここは、目立つからさ。向こうの駅まで一緒に行くからさ。
その……端にいかない??。』
「…イヤです。」
『ええぇっ!』
イヤだった。離れたくなかった。
小さな子どもじゃあるまいし……でもイヤだった。
先輩はグズる私の体を離し、手を引いて階段下の壁際に隠すように他の人には…分からないように抱きしめて…ため息をついていた。
「…先輩……。」
『ん、何?』
「…その、……ご、ごめんなさい…先輩…
1人でも……頑張って立っていられる。…そう。もう、子どもじゃないんだし大丈夫。そう信じていたんですが…。
……結局、頼ってしまいました。
…結局。1人では頑張れない。踏ん張れませんでした。
……結局。弱いから、甘えてしまいました
私なんて “だからダメなんだよ!” なんです。
ごめんなさい。…うっ…ごめんなさ…い…。迷…惑、かけちゃった。
…すみません。ごめんなさい。すみません……。」
『……もう、いいよ。いいんだ。いいんだよ……。』
そんな言葉を聞いたら、
-……今日は、今日だけは…ダメ。無理。頑張れない。-
『大丈夫だよ』
先輩の声が頭の上から…聞こえた。
『……いいんだよ。』と。
昔の自分に戻ってしまった。
小さな子どもの頃の私。
思い通りにならなくて。
兄達のバレーの大会に置いて行かれて
留守番がイヤで。
独りになるのが怖くて。
眠れない夜が怖くて。
兄達に負けたくなくて頑張っても追い付けなくて
小学生の頃、友達とケンカした
ジュニアバレーで負けた
宿題が終わらなくて…
中学校で髪の事を言われた
バレーで…。友達にも…。
お兄ちゃんの彼女に……。
グズグズと泣いて両親の背中に、蝉のようにくっつくか、お兄ちゃん達の懐に突っ込む……。ぴったりくっついて、みんなを困らせていた。
しかも……挙げ句にしがみついたまま寝る。
厄介な私。困り者の私。
-…眠い。-
グズグズ言いながら…先輩に抱きついたまま…うつうつし始めてしまった。
手の力が…抜ける。…心臓の音が気持ち良い。
立ったまま…眠い。
『新名?。ニーナ!』
「!?」
パッと目を開けて上を向くと、
『大丈夫?』
と、心配そうな顔の先輩に
「……」
無言で返すしかない私。
『あ…ねえ…、もしかして眠いの⁉️』
「…………。」
無言の私に、『“沈黙は是なり”だよ。』って、笑いを必死で抑えながら言った。
私は…無言のまま、先輩の背中を叩いた。
『ねぇ…呼び方さ…。誰とも違う呼び方で良いかな?。新名さん・伊織ちゃんじゃなくてさ…。
ニーナ。ニ~ナ?って。』
「……。」
ちらりと見上げてから、無言のまま俯いた。
『“沈黙は是なり”だよ。』
私は、無言のまま今度は、先輩の腕を叩いた。
- イテっ……-
先輩は私を抱いたまま、クスクスと肩を震わせ笑っていた。
アナウンスが聞こえて電車が、入ってきた。
『さぁ、帰ろう。送るよ。1つカバンちょうだい。』
降りて行く乗客をやりすごし、電車に乗り込んだ。
この時間は、帰宅の学生が多く賑やかだった。
俯いて顔を上げない私の手を握り、込み合う電車の乗客から泣き腫らした顔を見えないように隠してくれた。
学校最寄りの駅から15分。
車内アナウンスで、もうすぐ着くと分かった時、また不安が押し寄せる。
寂しい。1人になりたくない。
またグズグズとし始めた私に先輩は何も言わず、握った手に力を入れて、“大丈夫だよ”と合図をしてくれた。
『着いたら、連絡するんでしょ?』と、問われ黙ったまま頷いた。
『どこで降りるの?』
「……次の駅です…。」
掠れて声にならなかった。
『次ね。』
寂しかった。手を離したくなかった。
また、涙がにじむ。
グズグズと俯いたままの私に
『大丈夫だよ。ここにいる。』
「……」
駅に着いて、先輩に『さぁ行こう。』と言われた時、寂しかった。
ウチに電話して…
そして、迎えが着くまでの時間をどうしたらいいか分からなかった。
先輩には5分後に着く電車で帰ってもらわないと、40分待つ事になる。
離れたくなくて…でも…
帰れなくなる先輩が…ここまで送ってもらうだけでも…。
でも……
でも…
-帰りが遅くなってしまう。…もう、迷惑はかけれない。-
「あの…先輩。もう大丈夫です。
電話すれば10分位で迎えに来てくれます。
…5分後に来る電車に乗らないと40分待つ事になるので…
帰らないと……。」
掠れた声で、俯いたまま話す私に
『…ねぇ、ニーナ。
帰って欲しいの?帰ったらイヤなの?
今の声は、“帰ったらイヤだ”って言ってるよ。』
「……」
『ねぇ、どっち?』
「あの…」
『ん?』
「……」
『あと少しで電車が来ちゃうよ。』
意地悪だ。怒ってる。…そう思った。
でも……どうしても離れたくない。
……嫌われてもいいから、帰らないで。離れたくない。1人は怖い…。
目をギュっと閉じ、先輩の制服に手をのばした。
「あの…今日だけでいいから。
一緒に……いてください。
か、帰らないで……。
私の事、嫌いになってもいいから……。」
好きとか、嫌いとかが問題なんじゃない。
嫌われてもいい。
先輩が、“ニーナ”と呼んでくれる事が大事でもない。
特別じゃなくて、同情でいい。
今、立ってられないから。
今の出口にたどり着きたい。
苦しいから。手を引いて欲しい。
恵那の事を……怒っている訳じゃない。悲しい。
知ろうとしなかった…自分のバカさ加減が、悲しい。
ねえ!!こんな事…どこにでもある出来事なの?。
怒りの矛先がどこにも向けなくて……私に矛先が向いてるんじゃないか?と、
思ってしまうのが、怖い。
私が悪いの?。私のせい?
分からない。
もう少し……大人だと…大人になった。思っていた自分。
保育園児から成長してないじゃないか!!と、思い知った自分が嫌い。
私は……おかしいんだ。だから…バカなんだ。
『顔を上げて。』
その言葉に、私は…首を横に振った。
ため息が聞こえて。
『ニーナ……』
- …一緒にいるよ。迎えが来るまで。
だから、家に電話して迎えを呼んで。ね?。-
面倒くさいだろう。
先輩は、ずっと優しい。
電話ボックスの外で待っている先輩は……俯いていた。
……後悔?してるんだろうな…。
面倒な保育園児もどきの相手をして……。
-…もしもし…お兄ちゃん。迎えに来て。うん…駅まで……。-
電話の向こうの兄の声は…“怒っている”と感じた。
電話をかけ終わり電話ボックスから出ようと思って顔を上げたら、先輩と目が合って、“おいで”と手招きしている。
『大丈夫?迎え、来るって?』
「…。」-黙って頷く事しかできなかった。
『そう。どれくらいかかるの?。』
手を握ってきた先輩に、驚きより優しさが痛かった。
「……。」
『わわっ!!』
何も言わず、しがみついてしまった。
電話ボックスのガラスに、ぶつかった音がしたけど……。
考えたくない。
身体、全部が…心も…何もかも痛かった。
……心臓の音が聞こえる。暖かい。
ため息と一緒に、静かに片手で抱きしめてくれた。
…端から見れば、ただの“バカップル”だったろうけど……。
「…ごめんなさい…今日はダメです。独りはイヤだ……。」
また一つ。ため息とともに…
『仕方ないな。』
つないでいた手を、離そうとした先輩の手を…離れないように…握りしめた。
「イヤです。」
『ええぇ……』
また…ため息…。
でも、そのため息とは逆に、抱きしめてくれた。片方の腕に力が入ったのは、気のせいかもしれない。
-勘違いでいい。今は離れたくない…。先輩の心臓の音が気持ちいい…。-
暫く、ガッチリしがみついていた私に、
『ニーナ、苦しい…』
「……」
『ニーナ?』
「イヤです。」
『ハッキリ言うの!?』
頭の上で笑っている先輩。
胸に響いてる先輩の笑いを抑えた声が心地よかった。
暫く笑い声を聞いていた。
何かを飲み込む胸の音の……次に聞こえた先輩の声。静かな声。
『……あのさ。
あのさ……ニーナ。
俺達、付き合ってみないか?。
ニーナの好きとかは、後でいいからさ。
一緒に……いてみないか?。』
思わずパッと上を向いたら先輩と目が合った。
でも、……思考が停止中の私の頭は、何も考えられなかった。
『ニーナ…。返事は……』
答えられない。分からない。
そんな言葉が頭をよぎった時、迎えに来た兄の…怒っている声が聞こえた。
「伊織!!!!!!」
駅前に車を停めて、側まで来た兄に。怒っているだろうお兄ちゃんに…。
先輩の胸をパッと離れ、兄の胸にガッチリしがみついた。
「おうぁっ!イテっ!!!!
伊織!!」
「……。」
「伊織?。」
「……。」
「……あぁぁ。ダメだこりゃ。」と、胸から聞こえた兄の声。
“ダメなんです。今日は…”
-焦り
駅まで着いて、彼女の顔を見た時…少しずつ曇っていく笑顔に不安になった。
「ありがとうございました……。」
俯いたまま手を出した彼女は、屋上から連れ出した時と同じ声だっだった。
『送っていこうか?』
思わず、声に出た。
「いえ、もう…大丈夫です。」
『でも…。』
心配だった…と、言うより離れたくなかった。一緒にいたかった。
だけど…
「大丈夫です。」「心配しないで…。」
少しだけ笑顔を見せた彼女。
お兄さんがいて、迎えにきてくれる事。“私とよく似ている”と言った事。
……もう少し話していたかった。
さっきまでの笑顔が無い事。何か我慢している事。気になってしょうがない。
電車のアナウンスが聞こえた。
「…帰ります。今日はありがとうございました…。」
俺の影からひょい!っと顔を覗かせ、
「ありがとう……埜々香。進先輩。また明日ね。」と、手を振り
くるりと振り返らず走る。
気になってしょうがない。
大丈夫じゃ無いような……。
彼女が改札を走り抜けた時、離した手が寂しそうで…。
…なんだか今、彼女を追いかけないと永遠に手が届かなくなりそうで……
苦しくて。不安で。
石見を見た時、彼女を見送る視線が心配していた。
妹の方は、不安で仕方ないといった表情で…。
彼女が見えなくなった改札をみていたら…
-ダメだ。-
「石見、悪い。俺、送ってくる!!」
「ええぇ!おい!宗馬!!」
背中に石見の声を聞きながら、入場券だけ買って彼女を追いかけた。
何線?なのか?
…一か八かでアナウンスの聞こえた番線に走って探した。
いなかったら、どうしよう。
-いた!!-
電車が入ってくると同時に…彼女の視線の前に立った。
目が合った!!と思った。
手を伸ばそうとした時には、彼女は俺の胸に飛び込んでいて…。
驚いた。
また!!やっぱり!!泣いていた。
今日は頑張れない事。
じゃないかな。と思っていた。
思わず、腕を回したけど…気がついたらすごく目立って恥ずかしくて。
“座ろうか?”
“目立つし…”
そう話して体を離そうとすると、
“イヤです。”
“……もう、何なの?” って思った。
少し嬉しかった自分にも “……もう!何なの!?” って。
でも、駅なので…同じ学校のヤツも…いるな…。
明日には…ウワサだな。
彼女の姿は隠しているけど…隠したい。
明日、新名が学校に来れなくなると、もっと困る。
そんな事を考えながら、体を離して手を引き、余り目立たない階段の壁に、隠した。
隠してもやっぱり目立つだろう。
でも、新名は……離れるのをイヤがって…抱きついてきて。
“なんでなの!?”
“あー!《抱きついてきた!!》と、思いたい!!俺!”
正直……
“本当に。” 恥ずかしかった。
でも、
“本当は。” 嬉しかった。
“どうしちゃったの!?俺!?。頭、イカれちゃったよ!?。”
-先輩……?。-
細い声。掠れた声。
「1人でも……頑張って立っていられる。…大丈夫。そう信じていたんですが…。
迷惑…かけちゃった。
すみません。…ごめんなさい。すみません……。」
謝り続けた彼女に、
『いいんだ。』
-…やめて、謝らないで。泣かないで。笑って。俺……。
一緒にいたいんだ。だから……謝らないで大丈夫。-
『いいんだよ。』
何とか会話と元気をひき出させたくて。
一生懸命考えていたのに!!。
“?”
彼女の力が少し抜けた?
『新名?。伊織ちゃん!』
パッと目を開けて上を向いた彼女は、
「……」
無言で少し気怠い感じの表情。
“…あれ?”
『あ…ねえ…、もしかして眠いの⁉️』
「…………。」
“マジなの!?。”
『“沈黙は是なり”だよ。』
って、笑いを必死で抑えながら言った。
また、“何でなの?”が頭に浮かんだ。今日何回目の“何でなの?”だろうか。
彼女は無言のまま、俺の背中を叩いて。
ねえ。少し笑ってくれた?
いい事を思いついた。
俺だけの特別。
『ねぇ…呼び方さ…。誰とも違う呼び方で良いかな?。新名さん・伊織ちゃんじゃなくてさ…。
ニーナ。ニ~ナ?って。』
「……。」
ちらりと見上げてから、無言のまま俯いた彼女。
“ええぇ!イヤなの!?。”
『“沈黙は是なり”だよ。』
言ってみた。 否定?肯定?
無言のまま今度は、腕を叩かれた。
- イテっ!! -
どっちだ?……肯定にしておこうかな。
…可笑しかった。あまり笑うと目立つから。でも我慢すると…肩が震える。
アナウンスが聞こえて電車が入ってきた。
降りて行く乗客をやりすごし、
電車に乗り込むと、この時間は帰宅の学生が多く賑やかだった。
…同じ学校の子達もいる。
俯いて顔を上げない彼女の手を握り、そっと隠した。
車内アナウンスが聞こえた時に、ニーナがピクっと反応し、
またグズグズとし始めた。少し震えている手…。
握った手に力を入れた。
降りる駅を聞くと、次の駅だと言ったニーナの声が掠れていて…。
“あゎ…また泣く。”
グズグズと俯いたままだ。
『大丈夫だよ。ここにいる。』
そう言っても顔を上げない。
「……」
何かを悩んでいるのは確かなんだろう。
-我慢している。-
駅に着いた時、ニーナが掠れた声で…俯いたまま話しだした。
-…帰らないで。
でも先輩、この電車乗らないと…帰らないといけない。-
帰って欲しいの?帰らないで欲しいの?
『ねぇ、どっち?』
『あと少しで電車が来ちゃうよ。』
なかなか意を決してくれないニーナに…意地悪をした。
こうでもしなければ、ニーナは俺の近くに来てくれない。
制服に伸ばされた白い手は
“今日だけでいいから。帰らないで……。私の事、嫌いになってもいいから……”
何でそんなに恐る恐るなの?
どうしたら、笑ってくれるの?
どうしたら、俺の目を見てくれるの?。
『顔を上げて。』
その言葉にも拒否をする。
『ニーナ……』
…一緒にいるよ。迎えが来るまで。
電話ボックスの外で待っている時に考えた。
何であんなに自信ないの?。
何でそんなに…立っているのも限界なのに頑張ろうとするの?
電話をかけ終わったようで、顔を上げたニーナに“おいで”と、手招きした。
握った手がまた冷たくなっていた。
俺の質問に頷くだけで…疲れきった顔をして。
何も言わず、またしがみついてきて。
ため息がでた。
「…ごめんなさい…今日はダメです。独りはイヤだ……。」
それだけを繰り返すニーナ。
抱きしめようと、つないでいた手を……離そうとしたけど、ニーナは離れないように…握りしめた。
「イヤです。」
『ええぇ……』
また…ため息…。どうしたらいいか分からない。
仕方なく片方の腕で抱き寄せた。
離したくない。
力いっぱい俺の背中を…離れないようにしがみつくから、さすがに苦しい。
そんなにしがみつかなくても大丈夫なのに……
何でそんなに必死なの?
何がそんなに怖いの?
「イヤです。」
ええぇ!これは、ハッキリ言うの!?。
少し笑ってしまった。
おもしろい女の子。1日に何色も彩りを変える女の子。
……自分だけのニーナにしたい。
そう、静かに思った。
抱きしめる腕に……力が入ったと思う。
あぁ-!!何してんだ!俺!?
どうしたらいい?
舞い上がって。イカれた頭で必死に考えた。
出来るだけ建設的に考えてみた。
今まで恋愛で、そんな事考えた事なかったし、
…勉強なんてそんな風に考える必要なんてないから、“感情と心で考える”って難しい。
“……。
ムリ。分かんない。建設的って何? ムリ!
自分が…自分の感情が言う事聞いてくれない!!”
…ニーナが。好きだ。…好きになっちゃったんだ。
彼女を自分のモノにしたい。
俺の側にいて欲しい。
『あのさ……ニーナ。
俺達、付き合ってみないか?……。』
一緒にいたい。自分だけの特別なニーナが欲しい。
本当に…本当に…
ねえニーナ、“うん。”って言って?。
まだ俺の事、好きじゃなくてもいい。これから少しずつ俺の事を知って欲しい。
…違う。
俺の事、好きになってよ。
一緒にいたい。
お願い。ニーナ。
くすぐったい気持ち。
ワクワクして嬉しい気持ち。
一緒に笑いたい。独り占めしたい。君の心が欲しい。
俺だけを見て。
……今日はいいけど、明日は?。明日の保証がない不安…。
全部がない交ぜになって、苦しい……。
人を好きになるって…苦しいんだ…。
『…?』
車を停める音がして…。
多分。ニーナのお兄さんの…怒っている声が聞こえた。
「伊織!!!!!!」
その声にニーナは、
俺の胸からパッと離れ、お兄さんの胸にガッチリしがみついた。
と、言うより…勢いよく体当りしたような……?。
「おうぁっ!イテっ!!!!」
「伊織?……」
「……あぁぁ。ダメだこりゃ。」
呆然と2人を見つめていたけど、“はっ”と我にかえった。
“ダメだこりゃ”って……何で?
ニーナは…。
お兄さんの言葉に一言も返さない。