3年生にとって、最後の大会が各部で始まっている。

バレー部も勿論、インターハイを目指す練習で休日もない。




勝ちたくて、コートに生き残りたくて…。外されたくなくて。
肩が痛くても、膝が痛くても黙ってた。
部活が終わったコートで1人で練習した。
何か言われるのがイヤだった。
“頑張ってるのよ。私!”ってアピールするのがイヤだった。
少しの時間でいい。恵那が来るまでの短い時間。
四阿に行く…涼みに行く…振りをして。
制服とリュックがあれば、部室閉め出されないし。
…また、恵那を待ってるんだ。って思ってるよね。みんな。
バレー部に…仲の良い友達も…あまりいないし。

体育館、誰もいないよね…
辺りを見回してトスアップの練習をしたけど。

“うまくいかない。”
“上がらない”
“これじゃコースを読まれてしまう。”

-誰か!助けて!!-







暫く、バレーに向き合えない日が続いた私。

騙し騙し使っていた肩は、朝から痛みが強くて。

お母さんに「意地を張らないで整形、行きなさい!!」と、朝から怒られた。
今日は休みの…お兄ちゃんが、“オレ連れてくわ”と、肩を叩かれたら、思わず飛び上がった。
「痛い!!」
朝ごはんを食べていたみんなが…怖い顔になった。
特に…肩を叩いたお兄ちゃんは……鬼の形相。



肩の腱を傷めてしまっていたようで、一週間の安静をドクターに指示されて。
診察で押された骨が痛い。
炎症を止めるという注射が、…すごく?すごい!!痛い!!。 
なんなの!?。
 
「痛いからね~」
ぐっ……?痛くないよ。あれ?…きゃ-!。痛てぇー!!
声にならなかった。


「重い物は左手で。リュック禁止。一週間ね。大会近いでしょ?。コートに入れなくなるよ。あと、肩のテーピング忘れないで。お家の人に貼って貰うんだよ。一週間後、再受診ね。」

「…はい。ありがとうございました。」

注射の打たれた肩をなでで、涙目でお礼を言った。
勿論肩は痛い。でも今は、炎症止めの注射の後が痛い!!

-脱臼するよ。身長160無いでしょ?ジャンプトスもするでしょ。膝も…限界かな…。-
リハビリを受けながら、身長…の事を思いだし口唇を噛んだ…。 
どこもかしこも痛い。

お兄ちゃんが、“学校まで迎えに行くから、連絡するように” と、送ってくれた。
-懐かしいな。-
と、一言残して。
 


遅刻登校して、“マズイ…”と、気がついた三角巾…。

生徒玄関の隅で、吊っていた右側の三角巾をそっと外した。
誰にも見られないように。震えてる右側を何も無かったようにカバンを持ち替えて。 
リュックをかけ直したら、肩の骨にあたるベルトが食い込んでいるようだった。 
痛みを何も無かったように。平然に。なんともないように。


イヤだ。レギュラーから外されたくない。 
先輩を押し退けてまで掴んだ正セッター。
コートに立ちたい。
これが無くなったら、私には何も無くなってしまう。
震えて上がらない肩。

…これが決勝なら、折れてもいい。





午後からの授業をやり過ごして、部活に向かう。

肩の重い痛みが…なんだろう。痺れる。
やっぱり、上がらない。痛い。

「調子が悪いなら、帰ったほうが良いよ…。何も食べてないじゃない!!。
顔色も悪いし、貧血もひどいんじゃないの?」
心配した恵那に私は、「大会近いからダメ~」と、笑顔で返した。
困った顔の恵那。

「それに、今日お兄ちゃんが迎え来てくれるの。」

「あれ?じゃあ心配ないね。倒れないでよ?。」

「うん。」

「じゃあ、また明日だね。」 
可愛い笑顔の恵那。今日は、やけに眩しく見える…。

「また明日。」

「バイバイ。」

「じゃあね。」
後ろ姿を見送りながら、"可愛いっていいな。"って思った。

-ダメだな。今日の私。恵那の笑顔に嫉妬してる。
…あの人も恵那の事……。-

ため息がでた。

平然としていても、あの人のとの事が…恵那との関係に暗い影を落としていた。
恵那に相談すれば?
…恵那は知っていたの?って聞けばいいのに。
関係が崩れそうで…怖い。
大事な大好きな友達…。
…そう。大事なんだ…。

肩のせいだな。気持ちが落ちる。

…それが恵那と交わした最後の言葉。





何も食べてないから…気持ち悪くなってきた。空腹に痛み止めは、ダメか。

…外されたくない。


“先生に痛かったら飲んで”と、処方された痛み止めを、午前中と今で2回飲んだ。
-最短四時間あけければいい。-…とか言ってたし。
1回じゃ効かない。


 
平然とした顔で、ひたすらトスを繰り返した。
限界の痛みに、汗の上に更に冷や汗が流れて、水でも被ったようだった。
-薬なんて効いてない!。効かない!!…痺れてきた。-
- 気持ち悪い。吐きそう。 -

部活終わりに、「新名。今日は良かったぞ。大会もその調子で。」と、先生が肩をたたく。余りの痛さに、ビクッとした。-いだーつっ!-
先輩も「ナイストス~!良いトス宜しく!!」って
ビショビショの背中をたたいていく。

-…えーん!背中まで痛てーよ!-

痛くない…痛くない…痛くない…。
考えなければ、いいトスアップできる。
私には、バレーがある。バレーしかない。


ただ、…同じ2年のエースアタッカー。埜々香だけは厳しい顔を向けて
「伊織、指先…震えてるよ。冷やしたほうがいい。顔色も悪い。」と、アイスバックを肩に乗せた。
「あたし見ちゃったんだよね。あんた、右の三角巾…はむっ⁉️。」

思わず、埜々香の口を両手で塞いだ。-ダメ!-
「お願い!黙ってて。言わないで!。外されたくない。」 
小声でムリヤリ笑顔を向ける。

「…ナイショ?隠すの⁉️。」

こくこくと首を縦に頷く。それすら痛い。冷や汗が流れる。

「…じゃ~口止め料で、一緒に帰ろ。」

-げぇっっ-


1年生の時からエースでコートに入っていた埜々香。
強気のエースで、同級生からは正直、嫌がられていた。

-プレーは繊細なんだけどな。みんな、なんで分かんないんだろう。-
って思っている。
まぁ、繊細って気付いたのは、私がコートに入ってトスを上げるようになってからだけど。
あんまりにも、ズバリと言う物言いのせいで。…態度にも言葉にも正直さがでてる。
でもさ…私もちょっと…怖いんだよな。態度がね。


ごめん、恵那。名前貸して!。
「あのね、恵那と待ち合わせしてるんだ。」


「…」-あっイヤな顔してる。-

「…顔色悪いよ。さっきから汗、止まらないじゃん。途中で倒れるよ。だから、一緒に帰ろうよ。早く帰ろうよ。」


-…だから、“早く帰りたいんだよ…。身体中がしんどいんだよ。休みたいんだよ。-
今更、"お兄ちゃんが迎えに来てくれる"って言えなかった。

-失敗した。-

…苦い顔をした私に、埜々香は怖いぐらいの睨みを向けた。

「あ…あのね。埜々香。私やっぱり今日、お兄ちゃんに……迎えに…」
逃げたほうがいい。
本能的に…そう感じた。


「…あのさ…彼女、今日も彼氏と会ってから伊織のとこ来るよ。きっと。
テニス部の先輩。…吹部だって、バレー部と同じ時間に終わるのに、なんでいつも伊織、1時間近くあそこで待ってるの?おかしくない?。なんであんた、いつも…あの子にパシリみたいに使われて…。もう、やめなよ!!。私と一緒に帰ろうよ!!。早く帰って休もうよ!!。…男の告白なんて…断るのだって…自分でやらせなよ‼️。」

まくし立てて喋る埜々香の言葉に…理解が追い付かなかった。


…「えっ?今日も?…って何。」



狼狽えて中庭に目を向けると
“中庭で恵那が楽しそうに。”
“みんなで楽器の片付けをしてる。”
…体育館の開け放たれた“ここ”から良く見える。
あれ?あーあの人…楽しそうに笑ってる。“恵那”の隣で。
ここから良く見える…。
笑ってる…?
なんで?
私を見つけた彼。
にっこり笑って小さく手を振るのが…見える。
でも、私の心は動かない。
恵那は私を見ない。


……誰もいなくなった中庭。
今日も。彼氏と?会ってから、来る?
……今日も?
って。
…何??。

「は?…。へ?。…マジ話なの?」

えっ?誰の事言ってるの?
-…こんな墓穴ってあるの?。-
恵那…
…今片付けたら…遅くとも20分位で出てくるはず…
でも、私はいつも…どれくらい待っていたっけ?。
30分?40分?1時間?…あれっ?そんな待ってたっけ?

「……」

振り返りたくない。埜々香を見れない。

膝がガタガタと寒くもないのに震える。

“使われてるんだろうな。” そう思っていても…認められなかった思い。

思っちゃいけない。って。そんな事無いって。

大事な友達。

私の親友?。

冷や汗が首筋に流れる。
……―今、何月だっけ? えぇっ~5月かな?。今何時だろう?帰らなきゃ。…お兄ちゃんに電話して迎えに…―。

目が泳ぐ。自分でも視点が定まらないのがわかる。
パニックの私は今日がいつなのか、今何をしなければいけないのか吹っ飛んでしまった。
笑うしかない。誤魔化したい。


-冗談でしょ?- 疑いの…泳いだ目を向ける。

“嘘なんていわない!”  
強気な瞳はコートの中で見た事がある。
“絶対キメてやるからよこせ!”と私のトスを待っている強気な眼差し。
本気で勝ちにいく迷いのない瞳。




…狼狽える心と瞳。疑い。
本当の事なの?
埜々香の言った事が本当なら、なんで言ってくれなかったんだろう?。
いつも一緒にいたのに。
私が気付けないのが悪いの?。
人気者の恵那。 
引き立て役だって。わかってた。そんなの。
私を…陰で笑ってたの?。
私が、嫉妬してるの知ってる?…気づいてて…言えないの?
何でも話してくれて…。 
親友って思っていたの…私だけかな…。
…パニックになっている私は、どんどん悪い方へ考えが向かう。
悲しくなった。身体中がつらい。


「嘘だよ。…なんで埜々香が知ってるの?…私、知らない。」声が震える。

「伊織…。」

「……」

「伊織…。
…まさか!!本気で知らなかったの!?…」 

「何なの?…なんで?どうして?どうして知ってるの!?。私は知らない!!。」叫び声が響く。

ボロボロだった。何かが崩れた。大事な友達だったのに‼️。

「…だって!だって!!、いつも部活終わると体育館の裏で待ってるもん‼️。わ…私、ほとんど1人だし…たまたま、涼みに行ったらイチャイチャしてるのよ‼️。
あの子と伊織と仲良くしてるのも分かってて言ってるの!。
もう、都合良く使われて、伝書鳩するのやめなよ‼️。
あの子と仲良くするのやめて!!。」

「えっ…」 
ーえっ?……何を言っているの?…イチャイチャって何?-


“むぅっ…”とした顔の埜々香。
誰もいない中庭に顔を向けた彼女が、私の腕を掴み歩き出す。
「痛い痛い痛い!さわらないで!引っ張らないで!痛い!!。やめて!!行きたくない!!」

はっとした顔色の彼女が俯いて悔しそうに手を離して言った。  
“一緒に来て”…
囁くほどの小声だった。
-緒に来て。見て!。自分の目で!。本当の事を!!。
埜々香の強気な眼差し。
本当は、早く帰りたい。座りたい。眠りたい。逃げたい。
ただ、1ヶ所痛いだけなのに全身が痛い。

「嫌だ‼️」

「帰りたい!。本当は、お兄ちゃんが迎えにくるの!!。
だから嫌!!。やめて!。知りたくない!!。」
渡り廊下をズルズルと引き摺られて行った第2体育館の裏。
武道館の間。
その向こうにはテニスコートと第1グランド。野球部がまだ部活をしている。

俯いている私に埜々香は、「見て伊織…。あそこにいる。」
「逃げないで、本当の事!知って!!」
静かに…諭すように…でも強制的に、私の耳元でささやいた。

埜々香の影に隠れながら、そっと目を向ける。

強固に…頑なに拒否すれば見なくて、知らなくて……知らないフリをして過ごす事ができたのに。

多分…私の興味が。知りたい気持ちが、自分を壊す事になるなんて。
知ることが怖い。でも、知りたい。

恵那が黙っていて…
嘘をついて。私を利用して。
いいように使っていた事を知ったら、私は正気でなんていられない。
…私…使われていたの?

恵那と友達でいたい。


-恵那…?-
誰?
テニス部の先輩?嬉しそうに微笑みながら話していて…。
顔が赤い。可愛い笑顔。可愛い恵那。
どういう事?。 
タオルで首筋拭いてるって、親密すぎない?。
あれって…まるで?
…まるで。じゃなくて、彼氏だよね?
付き合ってるの?……。
本当に!?。…嘘じゃないの?。


埜々香に顔を向けると“真実を見ろ‼️”って目配せをする。

心臓に何かが刺さったような痛みが走る。

-知らない・知らなかった-
何で?
私って…何?
バカじゃん。
尻拭い。
隠れ蓑。
汗だか涙だか分からない滴がポタポタと頬を伝う。
-ひどい。憎らしい…。私は…知らなかった。- 
感情のコントロールができない。 

「……」

埜々香の顔を見る。
いつから!?
知らないの私だけ?
私は他の男へのお断り役?。
イチイチ面倒だから、私にさせてたの?。


逃げるように引き返した。


くらくらする。 
にじむ涙に前がよく見えない。
心臓の音が耳に響いて何も聞こえない。

行かなきゃ良かった。
自分のコントロールができなくなるのが分かっていて…
断固拒否すれば、こんな事…知らずに…。

恵那の事…。
本当は…私、ずっと知らないふりをしてきた事を、確かめたくなってしまったのかもしれない…。
…知りたいと思う自分もいたんだ。


知らないふり?
知らなかった事?。
考える事ができない。
大好きな恵那。可愛い恵那、素直な恵那…
彼氏ができたら1番に教えてくれるって思ってた。
私よりずっと先に彼氏ができて、嬉しそうに話してくれて…
私、恵那の親友だと…思っていて…。
恵那が大事。大切で。友達で。親友で……。
なんて…さ。
でも、…違ってたみたい。
恵那に彼氏がいた事より、知らないで……知ろうとしないで……
言ってくれなかった事が…。
それがショック。悲しい。
自分が可愛くて…
もう、何がなんだか分かんない!。




-待って!伊織-


慌てて追いかけてきて、私を掴む埜々香の手を振り払たら転びそうになって渡り廊下の壁に手を付いた。
肩に痺れる激痛が走った。
「痛い!!」

-…うぇっ…気持ち悪い……肩痛い…。-

「伊織!待って!」

水盤までは、行けそうにない。
いつもの中庭へ行ける吹き抜けの渡り廊下の柱で背中を支えた。
「…吐きそう……。」
「ええっ!?」
「き、気持ち…悪い。吐きそう。」

肩痛い…指先もつま先も冷たくなっている。
頭の先から冷えてくる。
泣いているみたいだけど…嗚咽だけしか残らない。タオルで口元を塞ぐ。
目の前がチカチカとはじけている。
白くにじむ。

「待って!!伊織!!保健室行こう。あぁムリ?待って!。」

蒼白な顔で座り込みそうになった私の腕を支えて「誰か!!」「誰か来て!!」
体育館から走って来る誰か。

「兄さん!!兄さん早く!!」と叫んだ埜々香の声が遠くに聞こえる気がする。 

-ヤダ。言わないで…外されたくない- 
「埜々香…嫌だ。言わないで…。」
腕を掴んで訴えたと思う。
「お願い。言わないで……お願い。」
埜々香の袖を掴み、訴える声は届いたのだろうか…?。
この期に及んでも…でも、バレーまで取り上げられたらどうしよう…。

「伊織、待ってて!。」


大きな声に体育館が静かになった気がした。

誰かがバタバタと走って来た感じもする。

カシャン…と、たかい音だけが耳に残っている。

貧血かなー…目の前真っ暗。見えない。呼ばれている感じもする。

…あぁ…もうダメ。気持ち悪い…吐きそう。
-嫌だ‼️行きたくない。嫌‼️-
-知られたくない。外されたくない-

ゆらゆらと…誰かに掴まっている手が滑って…
「…ダ-レ…?」
『新名…さん!!。ニーナ!!。』
-……言わないで。イヤ!-







-驚き



帰ろうと玄関に足を向けた時、中庭につながる渡り廊下で、蒼白な顔色でしゃがみ込んでいる彼女の姿が見えた。
何か慌てるバレー部の女の子もいる。

-新名?さん?-

“誰か!……早く!兄さん!!”

えっ?

あの子、石見の妹?

いつの間にか走り出している自分に驚いた。


あれから少し時間が経って、彼女の後ろ姿しか……灘生と一緒に帰る彼女を…冷静になって見れるようになっていたのに。
諦めに変わろうとしてたのに?。
しょうがない。って。

でも……。彼女が欲しいって…何故だろう。今、思った。
なんで?俺…。
そう考えると同時に足は彼女の方へ…走り出していた。


向こうから走って来た石見の姿も見えた。
よくわからない衝動。
石見に彼女を触らせたくない恋情が、ヤツの手を払った。

『ごめん…石見』

-保健室行こう‼️-
引っ張り上げようとした手を握った時、
「痛い!!」
と、振り払われた。痛いって?何?

-イオ!-

さっき側にいたバレー部の女の子が別の場所へ走って行く。

少し離れた場所で灘生と言い争っている。
隣にいる奴は…?。





なんでこんな事に?
保健室へ……と、言ってもテコでも動かず「嫌だ‼️行かない。嫌だ‼️」と。 
「そんなに冷えた身体ではダメだよ。」
と側で声をかけていた石見も困り果てた顔をしていた。

仕方ない。四阿のベンチで休ませよう。と、強引に抱き上げた時、「……言わないで。外されたくない……」と制服を掴み囁く声に驚いた。
思ったより軽い身体にも。
冷たい身体にも。
何としてもコートから外されたくないと言う言葉にも。

-過呼吸?……じゃ、ないよな…。-

「気持ち……悪い……。」

『えぇっ?』
とりあえず、横向きに寝かせた。
意識が朦朧としている?。
『大丈夫⁉️』
呼び掛けに無言で…。
顔色が…血色が無く蒼白な顔。
貧血?
息は?してる…
大丈夫⁉️
涙が流れ落ちた。何故だ?。
とにかく、安静に…。あえて…涙の跡を無視した。




-なぜ?-



仕方なく四阿のベンチに寝かしたものの
…本当はここは涼し過ぎる。

-頭に何か枕みたいな…。-

『石見…上着貸してくれ』

「は?…ああ、頭ね。」

心配そうに覗き込んでいる石見はジャージを脱いで枕代わりになるように畳んで渡してくれた。


ふんわりと洗剤の…石見のいつもの匂いが、何となく気になった。

-…あえて無視。必要だし。-
足も気になる。ハーフパンツから見える足……。
生…足……。
“他の誰かに見られている”という……。-

何となく、危うい感じが……どうにもならない感情に、自分の髪をグシャグシャとかきあげ、何か方法は-…と。

そうだ!制服!

慌ててブレザーを脱ぎ、背中辺りから掛けてあげると、ほっとした自分が…。

『何やってんだ、俺……』ため息が出た。

自分でも気づかなかったのが不思議な程、ドキドキして…心臓が口から飛び出そうだった。

彼女の側に、力が抜けたようになって座り込んでしまった。

石見が近くにいたのに、俺は……滑稽だったんだろう。石見が軽くニヤリと笑ったらしいのを…視線で感じた。



“兄さん”と、石見を呼ぶ声にハッとした。

「伊織は?息してる?」
「息かよ。……ここで横になってるよ。」
「そう……。」


彼女の側に寄り心配そうに顔色を覗き込んだ後、俺の目を見つめたかと思ったら……ニヤリと試すように微笑みを浮かべた。

“うっっ”と、ひきつった顔を……石見の妹は、また…試すように笑った。
彼女…。石見と似ている……。


-靴下……。-
そそくさと彼女の足元に行き、シューズと靴下を脱がしていた。


「相馬先輩、ここにいる?。帰る?。」

-さすが石見の妹、聞き方も容赦ないな。-
と思いながら眠っているだろう?、青白い彼女の顔を見つめ “いる” とだけ短く答えた。

「私、着替えて伊織の制服とカバンもってくる。部室、閉め出されちゃう。」

……足音が聞こえた。

顔を上げた時には … もう、いない……。
“早っ。”

『…お前の妹、容赦ねーな。』石見に聞けば、
「アイツの行動は怖いんだよ……」と苦笑いされた。

石見のジャージを握り締めている彼女の手が何となくイヤで…。
彼女に背を向けベンチに寄りかかって頭を抱えた。
彼女の側から離れたくなかった。


-何なの俺。嫉妬?執着?…
“好きだな。”から…どうなっちゃたの?俺!

……どうしても!欲しい…-
なんで!急に。突然。
自分の中に涌き出た感情。




“う…ん…”  
と、身動いだ声が聞こえた。

目が覚めたのかと振り返ろうとしたら、肩口が引っかかった感じがする。
ベンチのどこかにかかったかな?と、視線だけ送る。

……白い指先が肩口のシャツを掴んでいた。

『!!』
ドキリとした。

無意識だったと思う。
何故か?そっと……その手に自分の手を重ねた。
-…冷たい!-
冷たさにも驚いた。


…そして、彼女の側で心配気な顔をしていた、
石見妹に…
『!!!!』
2度びっくりした。
口から心臓が飛び出そうになった。

-今日……2度目かよ……。-

さらに、追い討ちをかけるように……俺の手元に視線を送り、ニヤリと意地悪そうに……
“…みーちゃった!” と、言わんばかりの……。


「先輩。伊織さ、吐くといけないから、タオル口元に置いておくね。」

『あっ……あぁ。』

俺、どんな顔してるんだろう。
逃げ出したい!イヤ!駄目だ!、今手を離したら……二度と、手に入らない!!。
そんな胸騒ぎがした。


気まずい気持ちを何とかしたくて……でも、手を離したくなくて……。
必死に考えた。

あっ!そうだ!あのクソ眠たい新書がある。
小論模試の為に用意した新書。この際……眠くてもどうでも良いからと、新書にすがった。

でも、その新書は……制服のポケット。
手を離したくない。
新書にはすがりたい。
ギリギリ手を伸ばし、何度も手を離しそうになり、でも、離したくなくて……。
何とか手元にたどり着いた新書を見て、

-俺、小論模試…がんばるわ。-

多分、そこにいる二人には…滑稽に見えただろう。
でも、これが今の俺の精一杯の…精一杯できる不器用な…。
もう…不細工でいいや。
飾ってもしょうがない。
カッコつけても、俺…ダサすぎ。
もう…どうしよう。

なんて日なんだ。
短い時間が1日走ったかのように疲れた。




……風が通り過ぎていく。