第13話 ラーメンとドーナツ
それからあたしたちは、絶叫マシンばっかり狙ってガンガン乗りまくって、キャーキャーと喚き倒して、ヘロヘロになるほど大笑いして、どっぷり疲れて、それでも「まだまだ!」なんて言いながらいろいろ乗り回した。
お化け屋敷にも入った。メグル君がめちゃくちゃ怖がりで、あたしの腕にしがみついてるのがおかしくてついつい笑っちゃうんだけど、あたしも決してお化け屋敷が平気なわけじゃなくて。何かが出てくるたびに二人で悲鳴上げて抱き合って、もう進めなくって大変だった。
お化け屋敷を出た後の二人の爽快感溢れる顔ったらなかった。お互いに「脱出した!」っていう達成感に浸って同志の勇気を称え合ったんだけど、それも考えてみればバカっぽくて笑える。
それにしても、このメグル君って人はホント不思議な人。お化け屋敷とは言え、数日前に知り合ったばかりなのに、めっちゃ抱き合ったりしてても違和感がない。普通あれだけ抱き合ったりしたら、お化け屋敷出た後で気まずくなったりするじゃん。でも全然そんなのがない。
なんなんだろうな、この人ってパーソナルスペースの境界をいとも容易く曖昧にしちゃうんだ。するんと入り込んでするんと出て行く。不思議な人。あの『鉄壁のブロック』カオルさんと同じ血が流れてるとはとても思えない。
これでもかって限界まで遊びまくって、寒さに体が悲鳴を上げ始めたのが夜の七時。真夏ならきっとまだまだ遊んでいたと思うけど、寒すぎて流石に無理!
家に帰ってご飯作るのも面倒だし(疲れちゃったんだもん)、かといってカオルさんに作って貰うわけにもいかないので、駅の近くのラーメン屋さんに行った。
ラーメン屋さんも久しぶりだ。女の子一人じゃなかなか入ることは無かったけど、メグル君と一緒なら入れちゃう。キンキンに冷え切った体に熱いラーメンのスープが染み渡ると、生き返った気分になった。
メグル君は野菜たっぷり塩ラーメン党。あたしはこってり味噌ラーメン党。聞くところによるとカオルさんは正統派の醤油ラーメン党だそうで、みんなそれぞれらしくて笑っちゃう。おうちでラーメン食べるときどうするんだろう? じゃんけんかな?
お腹が満足したあたしたちは、カオルさんへのお土産にドーナツを買った。カオルさんは味気ない焼きドーナツが好きらしい。メグル君はチョコレートたっぷり、あたしは中にクリームが入ってるやつがお気に入り。他にもはちみつのとか、シナモンシュガーのとか、カレードーナツとかも仕入れて帰った。
帰る頃にはあたしたちは手を繋いでいるのが自然な状態になっていて、なんでこうなっちゃったのかわかんないけど、ずっと手を繋いだまま歩いていた。
あたし、メグル君のこと好きになっちゃったのかな。うん、まあ確かに好きだ。優しいし、可愛いし、イケメンだし。イケメンじゃなかったとしても、こんなに優しい人っていないと思う。まだ会って数日なのにな。こんなことってあるのかな。あってもいいよね。
「どうしたの? 何考えてるの?」
「ううん、何でもない」
「嘘だー。カオルのこと考えてたでしょ」
「違うよー、メグル君のこと考えてたんだよ」
「僕の事?」
あたしの顔を覗き込んでる。可愛い。
「うん」
「ほんと? 照れるなぁ、嬉しいけど」
「そういう素直なところ、好き」
「ありがとう」
マンションに着いた。
カードキーを通して富士山の標高を入力する。ピーッと音がして、カチャッとロックが外れる。
仲良くエレベーターに乗ってドアが閉まると、狭い空間に二人っきりになる。昨日のカオルさんを思い出してしまう。唐突に至近距離に入ってきたあの美しすぎる顔。
「僕は綺羅ちゃんの全部が好き」
「え?」
「キスしていい? やだって言ってもするけど」
そういってメグル君があたしの視界一杯に入ってきた。ああ、あたし、メグル君にキスされるんだ……ってぼんやり考えて。柔らかい唇が合わさって。
エレベーターが七階に到着した。
「綺羅ちゃんのキスは味噌ラーメンだった」
「メグル君だって塩ラーメンだよ」
二人でクスクス笑いながら部屋の鍵を開けると、中から「おかえりー」とカオルさんの声が聞こえた。
やだ、どうしよう。たった今メグル君とキスしてたのに、カオルさんの声を聞いたらまた昨日のエレベーターを思い出してドキドキしてる自分がいる。今キスしていたのがカオルさんだったら、きっと今頃あたしは立っていられない。
妙な緊張と、ちくりと胸に刺さるメグル君への罪悪感を抱えて部屋に入ると、お風呂上がりらしいカオルさんがスウェット姿で濡れた髪の毛を拭いていた。
心臓が口から飛び出るほどの色香に目を奪われて、思わず立ち尽くしてしまう。
「どうした、綺羅?」
「あ、いえ」
「綺羅ちゃんは僕が貰ったからねー」
「好きにしろ」
え、それだけー?
「カオルさんにお土産です」
「ん? なんだ?」
横からメグル君が口をはさむ。
「味気ないクルミの焼きドーナツ」
「でかした。コーヒー淹れる」
カオルさんは首からタオルを下げたまま、コーヒーを淹れに行く。
「僕たちさっきラーメン食べたばっかだから、カオルが一人で食っていいよ。チョコリングとクリームのはとっといてね」
「了解。綺羅は風呂に入ってこい。体、冷えただろう」
「あ、はい。でもメグル君……」
「いいよ~、綺羅ちゃん先どーぞ」
「ありがと。じゃ、先に入ってくる」
あたしは「カオル~、僕のコーヒーも」っていうメグル君の声を背中に聞きながら、モヤモヤするものを抱えてお風呂に向かった。
それからあたしたちは、絶叫マシンばっかり狙ってガンガン乗りまくって、キャーキャーと喚き倒して、ヘロヘロになるほど大笑いして、どっぷり疲れて、それでも「まだまだ!」なんて言いながらいろいろ乗り回した。
お化け屋敷にも入った。メグル君がめちゃくちゃ怖がりで、あたしの腕にしがみついてるのがおかしくてついつい笑っちゃうんだけど、あたしも決してお化け屋敷が平気なわけじゃなくて。何かが出てくるたびに二人で悲鳴上げて抱き合って、もう進めなくって大変だった。
お化け屋敷を出た後の二人の爽快感溢れる顔ったらなかった。お互いに「脱出した!」っていう達成感に浸って同志の勇気を称え合ったんだけど、それも考えてみればバカっぽくて笑える。
それにしても、このメグル君って人はホント不思議な人。お化け屋敷とは言え、数日前に知り合ったばかりなのに、めっちゃ抱き合ったりしてても違和感がない。普通あれだけ抱き合ったりしたら、お化け屋敷出た後で気まずくなったりするじゃん。でも全然そんなのがない。
なんなんだろうな、この人ってパーソナルスペースの境界をいとも容易く曖昧にしちゃうんだ。するんと入り込んでするんと出て行く。不思議な人。あの『鉄壁のブロック』カオルさんと同じ血が流れてるとはとても思えない。
これでもかって限界まで遊びまくって、寒さに体が悲鳴を上げ始めたのが夜の七時。真夏ならきっとまだまだ遊んでいたと思うけど、寒すぎて流石に無理!
家に帰ってご飯作るのも面倒だし(疲れちゃったんだもん)、かといってカオルさんに作って貰うわけにもいかないので、駅の近くのラーメン屋さんに行った。
ラーメン屋さんも久しぶりだ。女の子一人じゃなかなか入ることは無かったけど、メグル君と一緒なら入れちゃう。キンキンに冷え切った体に熱いラーメンのスープが染み渡ると、生き返った気分になった。
メグル君は野菜たっぷり塩ラーメン党。あたしはこってり味噌ラーメン党。聞くところによるとカオルさんは正統派の醤油ラーメン党だそうで、みんなそれぞれらしくて笑っちゃう。おうちでラーメン食べるときどうするんだろう? じゃんけんかな?
お腹が満足したあたしたちは、カオルさんへのお土産にドーナツを買った。カオルさんは味気ない焼きドーナツが好きらしい。メグル君はチョコレートたっぷり、あたしは中にクリームが入ってるやつがお気に入り。他にもはちみつのとか、シナモンシュガーのとか、カレードーナツとかも仕入れて帰った。
帰る頃にはあたしたちは手を繋いでいるのが自然な状態になっていて、なんでこうなっちゃったのかわかんないけど、ずっと手を繋いだまま歩いていた。
あたし、メグル君のこと好きになっちゃったのかな。うん、まあ確かに好きだ。優しいし、可愛いし、イケメンだし。イケメンじゃなかったとしても、こんなに優しい人っていないと思う。まだ会って数日なのにな。こんなことってあるのかな。あってもいいよね。
「どうしたの? 何考えてるの?」
「ううん、何でもない」
「嘘だー。カオルのこと考えてたでしょ」
「違うよー、メグル君のこと考えてたんだよ」
「僕の事?」
あたしの顔を覗き込んでる。可愛い。
「うん」
「ほんと? 照れるなぁ、嬉しいけど」
「そういう素直なところ、好き」
「ありがとう」
マンションに着いた。
カードキーを通して富士山の標高を入力する。ピーッと音がして、カチャッとロックが外れる。
仲良くエレベーターに乗ってドアが閉まると、狭い空間に二人っきりになる。昨日のカオルさんを思い出してしまう。唐突に至近距離に入ってきたあの美しすぎる顔。
「僕は綺羅ちゃんの全部が好き」
「え?」
「キスしていい? やだって言ってもするけど」
そういってメグル君があたしの視界一杯に入ってきた。ああ、あたし、メグル君にキスされるんだ……ってぼんやり考えて。柔らかい唇が合わさって。
エレベーターが七階に到着した。
「綺羅ちゃんのキスは味噌ラーメンだった」
「メグル君だって塩ラーメンだよ」
二人でクスクス笑いながら部屋の鍵を開けると、中から「おかえりー」とカオルさんの声が聞こえた。
やだ、どうしよう。たった今メグル君とキスしてたのに、カオルさんの声を聞いたらまた昨日のエレベーターを思い出してドキドキしてる自分がいる。今キスしていたのがカオルさんだったら、きっと今頃あたしは立っていられない。
妙な緊張と、ちくりと胸に刺さるメグル君への罪悪感を抱えて部屋に入ると、お風呂上がりらしいカオルさんがスウェット姿で濡れた髪の毛を拭いていた。
心臓が口から飛び出るほどの色香に目を奪われて、思わず立ち尽くしてしまう。
「どうした、綺羅?」
「あ、いえ」
「綺羅ちゃんは僕が貰ったからねー」
「好きにしろ」
え、それだけー?
「カオルさんにお土産です」
「ん? なんだ?」
横からメグル君が口をはさむ。
「味気ないクルミの焼きドーナツ」
「でかした。コーヒー淹れる」
カオルさんは首からタオルを下げたまま、コーヒーを淹れに行く。
「僕たちさっきラーメン食べたばっかだから、カオルが一人で食っていいよ。チョコリングとクリームのはとっといてね」
「了解。綺羅は風呂に入ってこい。体、冷えただろう」
「あ、はい。でもメグル君……」
「いいよ~、綺羅ちゃん先どーぞ」
「ありがと。じゃ、先に入ってくる」
あたしは「カオル~、僕のコーヒーも」っていうメグル君の声を背中に聞きながら、モヤモヤするものを抱えてお風呂に向かった。