だから、おかしいんだ。

今さら、なんで、なんて。


なんでわたしなの。

なんで優しくするの。


なんて考えちゃうのは、なんで。



――ふわり、と。



顔にかかっていた髪を、太い指で流された。指は耳元に触れ、おもむろに手のひらを添わせる。

ゆっくり顔が近づいてきた。


あ、これ。

これは。



「エルナ」



リョクくんがリョクくんじゃないみたい。


あぁ、だめだ、これは、無理だ。

気持ち悪い。



――キモチワルイ!!



反射的にドンッ!!と胸板を力強く押していた。



「……え、るな?」



戸惑いがちに名前を呼ばれる。

それさえも嫌悪感でいっぱいだった。

呼ばないでほしい。
見ないでほしい。
近づかないでほしい。

自分でもこの奇妙な感情を止められない。


やだ。

何これ。

吐きそうだ。


おかしい。おかしいよ。全部、何もかも。


おかしいのは……わたし?



怖くなって逃げ出した。

うしろからリョクくんとケイちゃんの声がする。応える気力はなかった。