ふたりをなだめながら廊下に出る。
右にリョクくん、左にケイちゃん。真ん中はひどく窮屈に感じる。
居づらなくてたまらない。
おとといまでは一番気楽だったのが、今となってはふしぎでならない。
生徒でごった返す購買につくと、リョクくんはわたしの分も買ってくると言って、争奪戦に参戦しにいった。
ケイちゃんも意気込んで端っこのほうから攻めていき、あっという間に埋もれていった。
見えなくなったとたん、全身の筋肉からゆるゆると力が抜けていく。
「……はあ、」
また胃が痛くなってきた。食欲ない。
ふたりは心からわたしを案じてくれてるけれど、ちっとも安心できない。ひとりにさせてほしい。そう思う自分が、やだ。
わたしはいつまで何も気づいていないフリをするんだろう。
「……まだ顔色悪いね」
「っ、へ?」
購買から少し離れた場所でじっと待っていると、上から影が落ちてきた。
顔を上げれば、記憶に新しい美形が近くにあった。条件反射でしりぞく。
ケイちゃんの好きな人。
図書室のマッシュくん。
名前……何くんだっけ。んんっと……あ、そうそう、ノブ。ノブくん。
「ど、どうも……」
「どーも。体調平気?」
この質問、今日で何回目だろう。
「うーん、微妙」
あ。しまった。
大丈夫の一言で済ませればよかった。なんで本当のこと答えちゃったんだろう。
「はい」
「え?」
「お大事に」
さらっと何かを手渡された。その何かを一瞥して視線を戻したときには、何ごともなかったかのように去っていた。
本当に一瞬の出来事すぎて脳内処理が追いついてない。
な、何だったんだ、一体……。
手元に残ったひんやりとした感触を、もう一度たどってやっと把握する。
「……お茶、だ……」
特典のシールのついた、ほどよく冷たい200ミリリットルの緑茶飲料。
苦味の強いやつだ。わたしの好きなやつ。
あっさりしすぎてて、お礼を言うのを忘れてしまった。
そういえば、前に、このペットボトルを誰かにあげたことがあった。昨年の今ごろ、どしゃ降りの雨の日だった気がする。
体調を悪そうにしていた男の子がいて、素通りするわけにもいかず、話しかけたら怯えられた覚えがある。手元にあったのはちょうどお茶ひとつだけで、気持ち程度にソレをそばに置いて立ち去ったのだ。
なんだかあのときのお茶が帰ってきたみたい。そんなわけないのだけれど。
そもそも、なんでノブくんがこれをくれたのかはまるで謎。でも飲まないのももったいないし、過去のわたしみたいに「お大事に」の気持ちだったのかもしれない。
あの男の子はどうなっただろう。
わたしは、元に戻れるだろうか……?