夕焼けの濃淡に輪郭の線がきれいに描かれていて、思わず見入ってしまう。あまりの眩しさに目を細めた。
「これからは理由なく、こうやって話したい」
耳を疑った。
マッシュの髪がさらりとなびく。
耳の裏側もあの濃淡で染まっていた。
「……わたしのこと、好きなの?」
「……わかんない」
冗談めかしたつもりだったが、またしても戸惑う答えを返され、言葉をなくす。
今、ただでさえぐちゃぐちゃな脳内に、ちんぷんかんぷんなことを言われたら、パンクしちゃいそう。いや、もうしてる。
「わかんない……?」
「ん。……きらい?」
そんなの……ノブくんがわからないのに、
「……わかん、ない」
わたしにわかるわけないよ。
「いいよ、わかんなくて。今は、まだ、わかんなくていいんだよ」
ノブくんの手の甲に小指がわずかにかすれた。無意識に半歩横にずれる。
ノブくんに好意があるかも、って思った瞬間に、こうやって並んで歩くのが少し気持ち悪くなる。
自意識過剰? 思い込み激しすぎ?
でも、居心地悪くは、ない。
「そういえばおれの名前知ってる?」
「ノブくん、だよね」
「キミノブ。おれの名前、キミノブだよ」
「……キミ、ノブ……くん。わたしは、」
「エルナちゃんでしょ」
“わかんない”が“わかる”に変わる日が来るのかな。
やっぱりわかんないことだらけだね。
今は、まだ。
終わったばっかりだからなおさら。
「おれこっちだ」
「わたしあっち」
「じゃ、また」
「うん、また明日」
《おしまい》