ノブくんがわたしを通り過ぎた。わたしの机にかかってあるカバンを持ってまた戻ってくる。
「帰ろ」
「エル!」
「エルナ……!」
黙って背を向けた。
許す許さないじゃない。こうしなきゃ、わたしがだめだった。
お願いわかって。
わたしだって、いつかまた、返事ができるようになりたいんだよ。
ノブくんに手首を引かれるがままに歩き出す。
ノブくんの手の表面は骨ばっていて“オトコノコ”なのに、手のひらは弱々しい。
校舎を出て、不意に足裏の感覚が鮮明になる。
ふと悟った。わたし、引っ張られてたわけじゃなかった。ちゃんと自分の足で歩けてた。
「ありがとう」
そう告げたのを合図に、ノブくんの手が離れた。
わたしのカバンを手渡すと、わたしの半歩先をゆっくり進んでいく。足元から伸びる影は、絶妙に重ならない。
「どうしてやさしくしてくれるの?」
「助けてくれたから」
何気なく聞いたら、彼もまた何気なく、視線もくれずに声をすべらせる。
助けたってわたしが? ノブくんを?
記憶にないけど……。
「だから助けたかった」
もし、それが本当なら、鶴の恩返しみたいだね。
「でも、終わりにする」
「そっか」
うん、そうだね、それがいい。
十分恩返ししてもらった。そもそもの恩すら思い出せないけど。
明日からは言い訳なしで頑張らないと。
内心意気込んでいたら、おもむろにノブくんがこちらを向いた。