「……帰らない」



返事をしたのは、わたし。



「一緒には、帰れない」

「え? なんで〜? どうして!?」

「何か用事でもあんのか? それとも体調悪くて歩くのも無理そう?」



わたしの両肩をぎゅっとつかんだケイちゃんと、背中をさすってくれるリョクくん。

触れる温度は生ぬるく、制服越しに肌になじんでいく。


大好きだった。

……だった、よ。



「ノブくんとふたりで帰る」



大きく2歩、うしろに下がった。

ふたりを拒むのがきっと最善の答え。


わたしはね、気持ち悪いの全部おしまいにしたい。ごめんね。



「ど、どうしてよ。どういう意味?」

「今日だけ、だよな?」

「ううん、ちがう。今日から、ずっと。もうやめたいの。3人でいたくないの」

「な……なんで!?」



2歩分食い下がるケイちゃんが、エル、エル、と何度も何度も強く呼ぶ。

金木犀の香りが舞った。その香りは今でもやっぱりお気に入り。



「ねぇエルぅ!」

「ふたりのこと知ってるよ」

「エ、ル……っ、知ってる、って……」



わたし以上にふたりの顔色が悪くなる。

赤、青、白と移り変わっていく。たぶん次は緑色。



「だからしばらくふたりと距離置きたい」



知ってるだろうけど、わたしもたいがい不器用だからさ。おしまいにしないとやり直せないんだよ。


へにゃりと下手くそに笑ってみせた。

悲しくはなかった。泣けもしない。


ケイちゃんはポロポロ涙を流し、リョクくんは言葉を失い、唇を震わせていた。

ごめん、とせきを切ったようにか細いソプラノが、あどけないテノールが、ひとつまたひとつこぼれた。


吐き気がおさまるかと思ったが、そうでもなかったことがひどくやるせなかった。