「なんで逃げたの」
ふたを閉め、やわく垂れた瞳と交わる。
きれいな目。透明がかった雨空みたい。
「いたくなかった、から」
まただ。
彼の前だとなぜか、するすると本音があふれてくる。
「気持ちが、悪くて」
こんな最低な本音、言っても引かれるだけなのに。
「わかるよ」
思ってもみない言葉が返ってきて、思わず疑いの目を向けてしまった。けれど、ノブくんは表情ひとつ変えず、ペットボトルに視線を落とす。
プラスチックのうすい壁を、色の透けた雫が垂れていく。伝った跡を、また別の大粒がかき消した。
「おれも、そうだった」
「ほんとに……?」
「うん。でも、やさしさをもらって、変われた」
わたしの想いは、苦しさは、みんなに引かれるものだと思ってた。
でも肯定してくれた。共感してくれた。
わたしだけのものじゃなかった。
「わたしも、変われる……?」
「ん、きっと。一緒にいたくないならやめればいい」
震えが少しずつ止まっていく。
「おれを言い訳に使ってよ」
「で、でも……」
「それなら誰も傷つけない。友だちさんはおれのこと別に好きじゃないし」
え。好きじゃないって……。
あまりに淡々と話され、わたしのほうが動揺してしまった。
「し、知って、たんだ……」
「そりゃね。3人でいるとこ見れば気づくよ。あれは好意じゃなくてミーハーなだけ」
そっか……。なんだ。外から見たらわかりやすかったんだ。時間の問題だったんだね。
キスシーンなんか目撃する前に気づけたらよかった。
そしたら、気持ち悪さを感じずに済んだのかな。
「今日もあいつと一緒に帰んの?」
こてんと顔をななめにしたノブくんは、案じてくれているのかわからないくらい気だるげで、考えが読めない。
だけどそれがちょうどいい。
楽になれた。
「ほんとに言い訳に使ってもいいの?」