――キモチワルイ。
白みがかった茜色の光に反射して、ひどくきれいにシルエットが浮かぶ。
教室の扉のすきまから、わずかに光があふれてる。開けようとして覗き込み、目を見開いた。
なんで。
無意識に呼吸を止めていた。ほんの数秒前に吸い込んだ酸素は、そのまま肺を圧迫してくる。
机と椅子は、ついさっきわたしが整頓させたばかりだ。日直の仕事だからと仕方なく、けれどきっちりと角を合わせ、列を整えた。
しかし、ふたつの影の伸びる奥の端っこのほうだけ、早くも少し乱れている。
その影はぴったりくっつき、もはやひとつになっていた。形の良い唇が紅をうつし合う。
カーテンが揺れた。
梅雨明けのじめじめした微風が、ようやく離れた唇の間を通り抜けた。
ようやく。いや、そうでもないかもしれない。
何秒くらいだっただろう。
わかんない。
もう、なんにもわかんないよ。
ほんの5分、教室を離れただけだ。
職員室まで日誌を届けに行って。
この教室で、もうひとりの日直のケイちゃんと、わたしと一緒に帰りたがってたリョクくんが、わたしのことを待っていてくれていた。
それだけのはず。……だった。
でも、あそこで見つめ合ってるのは――間違いなく、わたしの大切な親友とカレシ。
啼くのもためらうほどのこそばゆい空気。
キスをしたあとのとろけそうな表情。
雨の上がったあとのような濡れた跡をしめらす、照れ隠しの癖。
全部、全部、わたしの蚊帳の外。
……ふしぎ。
悲しいとか、むかつくとか、そういった感情は沸き上がってこない。
ショックは受けた。それ以上に、ただただ吐き気がした。