夏休みは境界。公開告白される君と3日間の旅~小豆島・豊島編

ギャラリスト、武久一。

ハジメは 瀬戸内にある、
島の1つに来てる。

彼は
アートギャラリーのオーナー
だが、今は 白い帆がある
クルーズ船の中を ギャラリーに
して いる。

島の港に、横付けた船で
臨時の 『クルーズギャラリー』を
開いているわけだ。

「ホント、今年はぁ、
芸術祭が開かれるのか
どうかも、分からなかった
けどぉ、良かったよねぇ。」

やや タレ目 気味の瞳を 細めて、
今日もベージュ麻のスリーピースを
纏った ファッションのハジメ。

船のテラスで ご機嫌に、
モーニングを終わらせたところ。

「今年で、瀬戸内の
芸術祭ってぇ、何回目に
なるんだろう~ねぇ?」

スタッフのシオンくんが、
島で、朝早くに 焙煎された
コーヒーを いい香りさせて
淹れてくれる。

コーヒーショップには、
本とか オリジナルの グッズも
売っていたらしいねぇ。

「ハンドメイドの
コースターなんてぇ、
久しぶりに使ったなあ~♪
まるで彼女から みたい♪」

指先で、遊ぶデニムコースター。

ハジメは、
この時期に合わせて島で
クルーズギャラリーを企画した。

瀬戸内では
3年に 1度開かれる
国際芸術祭がある。

いわゆる『トリエンナーレ』だ。

2年に1度に開くのは、
『ビエンナーレ』。
どちらも語源はイタリア語。

1990年代以降、世界的に
『国際美術展』がされる事が多く
なったんだよねぇ~♪

「う~ん。始まりは、語源にも
なってる、ヴェネツィア・
ビエンナーレだよねぇ」

ハジメは、
濃厚な ガトーショコラを
舵細工のフォークで 口に入れる。

朝の 7時から 島で 売られる
コーヒーと、ガトーショコラ。
嬉しいよねぇ~。

さて、
ヴェネツィア・ビエンナーレ。

『美のオリンピック』て、
呼ばれてて~、
最先端の 芸術が 発信される
それこそ~ 国単位で競う
とっても有名な 展示会なんだ
よねえ。

芸術祭というのは、
世界のアートを一堂に介する
展覧会で、ヴェネツィア・ビエンナーレにより、100年以上の歴史が
あるイベントなんだよぉ。

アートに関わる者と
住民の交流、観光客の交流が
国際レベルで行われる。

地域 開催ならば、『地域おこし』を兼ねる事も多く、形式は、
世界から美術家を呼ぶ
『招待展』、『公募展』など
様々なんだ~。

「デニムってぇ、そうか~
近くの児島が産地だよねぇ。」

そう言いながら、
ハジメは 船の テラスから
ユラユラと 手を振る。

島の子ども達が、珍しそうに
集まって来たらしい。

「てかっ!!僕は独りで
しゃべってるっ事かなあ~?!
何か返してくれないのぉ?!。」

ハジメの 向かい側テーブルで、
ガトーショコラの感想を
言い 合っている スタッフに、
投げ掛けた。

「え? ハジメオーナーって
しょっちゅう 独り言いって
ますしー。今さら 気にも かけ
ませんよー。あと、彼女とか
妄想がヒドイー。」

シオン君は、今度は 自分が買って
きた 島焙煎のコーヒー袋を、
隣の ヨミ君に 見せて、
こっちを 見てもくれないよぉ。

「オーナーは、コーヒー、
デニム、芸術祭の思考が
節操なくダダモレ 過ぎ
なのでは ないですか。」

クールビューティー ヨミ君はぁ、今回 船にあわせてか、
メガネのフレームに錨細工や、
ツルが波形の ネイビーブルー
眼鏡姿だよねん。浮かれるぅ。

絶対仕事する気がないよねぇ?!

「じゃあ、オーナー質問!!
最近は 全国である、
芸術祭ですけどー、
日本で最初の芸術祭って、
何処で何時にあったんですかー?」

なんだ~、ちゃぁんと僕の話を
聞いて るんだねぇ、シオン君。

なのに~、

「そうねぇ。やっぱり、、、
岐阜の『国際陶磁器フェスティバル』じゃないかしら?

美濃のは最初から、
世界級の陶磁器コンペティション
だったみたいだし。
80年代から続いてる、
陶磁器トリエンナーレって事なら 断トツ ここが日本の初国際芸術祭ではないかしらね、後輩ちゃん。」

え~、なんで ヨミ君が スラスラ
答えちゃうのん~。

「へー、明治の京都博覧会かなーって思ったんですけど、
やっぱり博覧会は産業で、
芸術祭はアートって事ですね?

意外に日本では、陶器市が
トリエンナーレやビエンナーレ
文化の起点なんですねー。
茶道文化の賜物なんですかねー。」

うんうん~、いいんじゃない。

ちゃあんと仕事してるみたい
だよねぇ。

ハジメは 満足気に、
香ばしい、島焙煎のコーヒーを
シオンに、お代わりする。

「ヨミ君、僕も同じ考えだよぉ。
それに、芸術祭と観光は
リンクしてるしねぇ。」



1980年代。
日本でバブルの兆しがみえ、
パーソナルコンピューターが
生まれ、日本で海外テーマパークが開園した時期は、

『昭和』文化が開花した時代。

美濃で開催かれた展示会は、
わざわざ、海外の
陶器フェスティバルを視察して、
開催された
『国際陶器展示会』だった。


ついっと、ヨミ君は、
錨の細工部分を 指で上げながら、

「始めから 世界からの集客を
目指した、国際レベルの
『陶器の展示会』を目指した、
と言う事 ですね。」

僕に振ってきたねぇ~。

「そうだねぇ。歴史ある
美濃焼は、最大の生産量を
誇ってたのに、国内での
知名度が低かったんだよ~。

だからぁ、国内外にPR、
あと 世界の陶器も集約して、
デザインの交流も コンセプトに
したんだからぁ、国際芸術祭の
枠組みに入るよねぇ。」


そう、
始めは、文明開化の明治。

飛行機や、陸蒸気。
船による、 観光ブームの到来。

この頃すでに、
景勝観賞や サナトリウム保養を
目的とした『地域づくり』が
生まれ、観光が『産業化』しているのには、驚く歴史だ。

そして、戦後の混乱を脱した、
1960年代、高度成長期だねん。

新幹線や 高速道の整備で
交通移動が容易になり
再び観光ブームの2波がくる。

今度は、
『◯◯狩』といた観光農園とか
地域の地場産業と組み合わせた
形態の観光業で、
『余暇を過ごす観光』形態が
生まれたわけだよねぇ。

温泉地には、人々がごった返し
旅館ホテルの巨大化が起きる。

各地で産業や、産物の博覧会が
開催されるのもこの頃~。

同じくして、結婚観の変化で
「新婚旅行」も流行る。
メディアの普及も大きい。

なにせ、
旅行は、一大ブームとなった。
あわせて、観光地の地場産業も、
賑わい、バブル的観光 旅行が
生まれたわけで~す♪。

「でも、それじゃあー、
産業って事で、
『博覧会とか、展示会』と
『観光地』はリンクしますけどー、アートの絡みがみえませんけど?」

おや?!
いちいち、鋭くツッコんで
くるよねぇ~、シオン君!

え、君どんだけ、島で、
買い物してるの? 島題材の本?
あの、スパイモノだよね?

何、その銀色と金色の
レトロな包み紙の お饅頭。

え~、僕には ソレ 無いの?!
オーナーだよぉ僕~。

島ってのに、来たのは
やっぱり初めてだなと、
ユキノジョウは 路線バスに
乗せられて、ふーっと思う。

「ユリは、小豆島、
来たことある?」

ユキノジョウは、
アコの向こうに座わって、
外を見てた、ユリヤに聞く。

「わかんないけど、
初めてだと思う。」

「ふーん」

「あ、海来た!ユリヤちゃん、
そっち行く!」

アコは 隣のユリヤと席を
かわって、窓にはりついた。

さっきの港も 海だろう?って
思うけど、隣どうしになった。
まあ、いっか。

「当分バスだから、皆んな 少し
寝てたら?船じゃ、
寝にくかったでしょ。」

アコと 反対側の 窓際に座る、
副女さんの 声がした。

「副女さん?バスどれ
くらい乗るん?」

ユキノジョウとの間に、
荷物を 置いて座る 母親は、
日焼け止めを 塗り直し、
バス、涼しーとか しゃべる。

今、ユキノジョウ達は
路線バスの1番後ろに、
1列に 並んで 座っている。

醤油船の波止場は、

醤油の記念館や 工場のある
路地を、まっすぐ海に
歩いたところ だった。

ユキノジョウ達は、
朝ご飯や メロンを食べて、
蒸気が 所々シューシュー する、
路地を 戻って 記念館を
30分だけ、見た。

『せっかくだから、夏休みの自由
研究にしときな。』

副女さんは そう言って、
醤油の パンフレットも
くれたけど、
社会見学 みたいでイヤだ。

林間学校 じゃなけりゃ、
子ども会の キャンプでもない 旅。

わかってない。

そこから 路線バスに乗って、
中山って とこまで 行くらしい。

まだ 早いからか、
バスは余り 止まらないで、
走るから、他の人が 乗ってない。

「今ね、瀬戸内の島の いろんな
ところを使って国際芸術祭がされてるんだけど、今回のボランティアは その お手伝いね。」

たまに、バスの窓から
南国の木っぽいのが 見える。
オリーブの木だって、
窓から、教えて もらう。

副女さんが 話している途中で、
袋に 入ったままの なにか布を
出してきた。

「はい、1から5までの番号を
1つだけ、言って下さい。
アコちゃん。」

「じゃ!3!」

アコに、袋の1つを渡す。

「次、ユキノジョウくんかな。」

言われた けど、片手の平で
ユリヤを 示して、
ユキノジョウは 先を ゆずる。

「じゃあ、ユリヤは?」

「5番。」

「はい、これね。」

さっきと 同じように
副女さんが ユリヤに、
袋をわたした。

アコがもう中身を 出して、

「パンダの布だ!」

と、ピンクに パンダの柄の、
これは 手拭いだな、出してる。
ユキノジョウは、

「じゃあ、オレ、1っ番ー。」

と、袋をもらって 開けると。

「なに?新幹線?」 シブ。

副女さんが
残りの袋の1つを
ユキノジョウの 母親に 渡す。

「あ、これ!フェリーの
手拭い?!オッシャレ!」

ユキノジョウの 母親は、
バーンと、手拭いを横に広げた。

たしかに、船の名前と絵が
色版画 みたいな、手拭い?だ。

「はーい。もともと、手拭いは
3枚だけ 持って きてたから、船の中で 追加の 2枚買ったんよね。
ねー、おしゃれよね、
フェリーの手拭いも。」

副女さんも、袋をあけて、
フェリーの手拭い 見せてくれる。
うん。船の お土産 手拭いでも、
いい感じ だな。それも。

「ユキノジョウくんと、ユリヤのは、舞妓さんが 新幹線に乗ってる
手拭いと、舞妓さんが ラグビー
してる手拭い。ボランティアは
暑いから、手拭いを 冷やして、
頭に ちゃんと 巻いときな。」

そして、手拭いを 頭にお手本で、
巻いて 見せてくれた。
あと、見慣れた Tシャツを
投げて くれるし。これ?!

「副女さん、用意いいー!PTA
シャツー。」

バスは、始めは 潮っぽい 港町を
走っていて、
所々海が 見える坂を
上り下り、行っていた はず。

それが、キレイに、
海ぞいを 走り出して いる。

「部屋に 予備が まだあるから、
持ってきたよ。
皆、これ 着替えてね。」

「え、ここで!」

アコが とんでもない顔を する。

「プールのタオル、首まで上げ
たら、着替えれる でしょー。」

ユキノジョウの母親が 無茶苦茶だ。
へんだろ、バスの後ろで、
みんな『ミノムシ着替え』なんか
出来るか!!

見ろよ!ユリが
ヒソウな 顔してるから!

あんたらには、
まだ 子どもかも だけど、
オレらは もう 思春期 だって、
保健でも やってるん だよ!

「アタシ達も、『ミノムシ』で
着替えるかー♪」

やめろ、副女さん!
南国だからか!浮かれてんのか!

あぁ!
見ろよ、次のバス停に
人が 待ってるだろ!!くそー



路線バスが、海沿いの道から
山ん中に入っていくと、
今度は それまでとは 全然ちがう
風景が 見えてきた。

「田んぼが 段々だ。」

お皿が 重なる みたいに、
田んぼが 階段になって 山と山の
間をうめて、空に上る。

「棚田っていうんだよねー?」

ユキノジョウの母親も、外を見て
驚いている。
めずらしいってことか。

「そう、島の狭い場所を 開拓すると、そうなるんだろうね。小豆島の中山あたりは、まるでマチュピチュみたいだから驚くやろうね。」

副女さんが そう言って、
前を見ながら バスの料金を
出してる。

「マチュピチュって、何?」

ユキノジョウが 聞く。

「外国にある、天空の 遺跡。
そうやな、、降りて 上がれば、
もっとそんな感じに 見えるし。」

副女さんが、
楽しみにしとけ、って答えて
くれた時
窓から 石の柱が 見えて、

『中山~、中山~』

降りる バス停の 名前を
アナウンス された。

「はい、降りるよー!」

そう、副女さんに叫ばれて降りた
のは、港と 正反対に こんもり
山がある 映画な 場所で、
ユキノジョウは おどろいた。

「 箱庭みたい。」

めずらしく、ユリヤが バス停から
見下ろして、 つぶやいたのが、
ユキノジョウには意外だった。

下に、麦わらのお城みたいな
ドームみたいなのが みえる。

何だろう。この景色をみてる
ユリヤの顔。
何かが変わるような
感じがする。
ユキノジョウは、思うけど、
何かが分からない。


『今日、ボランティアで来てくれた家族さんですね。』

石の柱に縄が渡してるのを
くぐって 麦わら帽子の日焼けした、女の人がやって来る。

副女さんが 頭を下げて、

「人数が増えて、すいません。
よろしくお願いします。」

「全然いいですよ!ついでに舞台に出てもらってもいいですし!」

女の人は ボランティアをまとめる、芸術祭スタッフさんらしい。

着替えと、荷物用置き場を 教えて
もらって、ユキノジョウ達が、
縄の渡してるのをくぐって進むと、そこは、

神様がいる 昔話の場所 だった。
絶対いる!

オレは、監査女さんじゃないけど、すごく、神様がいるって、
感じる。

「ここって、何の場所?!」

山の坂を使って
緑がイキイキした、
芝生の階段になっている。

下には昔話にでてくる、
大きな かやぶきって家。
そして、坂の上を見ると、

こま犬と、
神様のいる場所がみえる。

間に、
長い小屋が 廊下みたいに ある。
祭の屋台が、段々になった
みたいな。

神様の場所の 後ろは、
山が せまっている。

何より、目立つのんが、
芝生の階段には、
たくさん着物が 干していた。

すごく、古っぽいのとかある。


「すごいやろ?神様が、人間のやる歌舞伎を見る場所やよ。今日はそのお手伝いをさしてもらうんやよ。」

神様の場所の 隣にある
板でてきた、屋台小屋で、
おそろいの Tシャツに
『ミノムシ』で着替える 。

ユキノジョウに、
副女さんが、教えてくれる。

「芸術祭って、けっこーボランティアでいろいろやるんやねー。」

ユキノジョウの母親は、
興味津々って顔を してる。

「普段は、やっぱり秋に、奉納農村型歌舞伎を集落の人達でやるみたいよ。今回は、芸術祭の企画で、
虫干しの後に 新しい演出で
歌舞伎を するみたいやよ。」

ユキノジョウの目の前には、
自分達の荷物以外に、
小道具?みたいな鳥とか
イノシシとかの 作り物が
置いてある。

これが、歌舞伎のか?
まったく、大人の考えは、
ユキノジョウには 分からない。

それでも、
ユキノジョウ達は、
和文字で学校の名前が入った
Tシャツで、
頭に手拭いを巻くと、
ザッ『ウラカタ』って、
感じになった。よし!

『では皆さん!午前中の作業は、
今虫干しをしている衣装の
ホコリを落として、片付けるのを、女性と子どもさんで。
男性は、今日の舞台作りと、
舞台の仕掛けを人力でする
お手伝いの段取りをします。
今、手を上げたスタッフに
教えてもらって下さい。
よろしくお願いします!!』

説明を聞いたら、
自分達は、干している モノの
ホコリ取りの役だと、わかった。

見ると、似たような カッコウで、おんなじ 学年みたいな
子ども達を見つける。

向うの Tシャツには 子ども会の
名前が 印刷してる。

「あー。オレらがアウェイか。」

ユキノジョウは、自然と
ユリヤと アコの手を にぎった。

子どもには、子どもの目線で、
見える 世界がある。

オレらの 探りあいがあるんだ。



「瀬戸内の島はねぇ、 昔から
本土からの伝統文化を脈々受け
継ぐ事で、島独自の文化が
生まれたのが、面白いですよぉ。」

言いながら、
目の前のゲストを
魅了する 人懐っこさをみせ、
デッキで
談笑している。

「日本の元風景、景勝地、そして
国の辿ってきた歴史のシーンさえ
もぉ
数多く 内包し残るってところが
また、島を旅行する醍醐味で
しょうねぇ。」

『クルーズギャラリー』を
芸術祭期間中に開いている、
ハジメの影は、
穏やかな 内海の上にある。

船は1つ目の島を出て、
次の島へと航路を進める。
さっきの島で、ゲストを2組
クルー船に迎えたところ
でもある。

瀬戸内は、

年間の 降水量が 少なく、
温暖な気候 が、地中海。

国内 だけじゃない。
海外からの観光客は、
訪日 観光ブームに
乗って 増加の傾向に あった。

とくに瀬戸内で 行われる
トリエンナーレは、100万人を
超える来場数。
経済効果は 180億円といわれる。

国内より、欧米の高級リゾート
ホテル誌に 多く載せられる。
そのため、クルーザーごと訪れる
富裕 外国人客が 増えていた。

今年はぁ 変わったヨットなんか
も来てたねぇ。

ただ、

「さすがに 今回は~、世界的な
新型ウィルスの流行が、あった
もんですからねぇ、いくら
島とはいえ、芸術祭の開催も
危ぶまれ ましたよぉ。」

ハジメと 並んで、
船のデッキに佇む客影も、
韓国からのゲストだ。

一見、顧客リストを見るだけ
だとぉ、まるで欧米人かと
思うけどねぇん~。

彼の国は、成人すると西洋改名に
する事が出来るの忘れてたよ~。
今回は 常連さまの、紹介だった
から、初お目見えなんだよねん。


『マイケル』って
超アジア顔の レディの名前
だって言われても~、
ややこしいよぉ。
中学英語の教科書で会った、
マイケルって、思っちゃうよねぇ。

あと1組のセレブ男性もぉ、
紹介されたけど、お初なんだよ。

「瀬戸内の芸術祭の淵源は、
児童通信教育の大手企業が、
1980年代後半に、美術館やホテル。キャンプ場の 複合施設として
アート活動をした「文化村」
だといえます。」

ああ、
スタッフの ヨミ君が、
その海外からの ゲストに、
開催中の 芸術祭について、
説明をはじめる。

お相手は、
さすが~ 流暢に こちらの
言葉を 話している だけあって、
地域性の高いトリエンナーレに
ずいぶんと 興味がある
みたいだねん~。

にしても、
ヨミ君、ちょっと 硬いよねぇ。

ハジメは、ゆっくりと 進む船からの光景を 流して見ていく。

午前中の海は、太陽が反射して
輝く中に、船影が いくつもある。

この当たりは 内海 独特の
小型漁船も 多いんだよねぇ。
まるで、アジアの海かと
思っちゃうなあ。

白い 帆掛け船で
底引き漁をしてるんだって。
マリンスポーツ界隈で いう、
瀬戸内の 暴走底引き漁船?。
どーゆー事かなあ、こわいなあ。

形は 伝統漁船
「芸州流し」「うたせ船」だよ
ねえ、確か 芸州は広島?。


今は あの船、
『バリバリのえげつないエンジン』と魚群レーダーもってるんだってぇ。シオン君が教えてくれたんだ
よぉ。
なに?どうして そんな事
知ってるんだろう、シオン君は。

あ、しまった横道に思考が~。

「戦後の旅行ブーム期、まず
島の南端地区を観光地に、財閥
観光業を誘致し、キャンプ場を
オープンさせた歴史から、
始まりまして、、。」

うん、そうだねぇ。聞いた事
あるよん。

当時、
岡山の港から 続々と島には、
観光客が 押し寄せて~、
ジュースとか 土産売りで、
子ども達が 優に
小遣い稼ぎができる
ほどのフィーバーぶりだった。

けど、
石油ショックの打撃!
財閥観光は すぐに撤退した。

こーゆー事が いろんな観光地で、
たくさん起きたらしい。


「1980年代に開設された
『文化村』は、最新建築の
研修所や、グランピングの礎
となるような、モンゴルの
ゲル方式の キャンプ場や
滞在型美術館が 柱でした。

ちょうど インターネット
黎明期の情報発信で 旅行好きな
世代や、
海外ゲストに 着目されます。
当初の課題 だった島民理解も、
住民の参加という法で、
アートが島に来ることのへの
門を開きました。」

なぜか 懐かしいなあって~、
思うけど。
そうかあ、1995年の阪神大震災。

ボランティア元年て言われる。


自然災害と 向きあったとき
芸術が できる事が あるのか?

ボランタリーの 芽生えが 起きて
アートの 社会的役割が より
問われるようになった。

そして、2001年
芸術祭の前身
『島スタンダード』開催。

島の風景、
何百年も 暮らす家屋、
床屋や 診療所、
卓球場といった
場所をつかった

歴史に対峙 するような作品が、
集まった。

自分と 何かとの
関係を考える。そんな、
コンテンポラリーアート祭
となった。

ここに
瀬戸内で行われる
トリエンナーレの始まりがあり、
今の 瀬戸内の島観光の
分岐点が 出来上がる。

ハジメは、揺れる船影を
目に捕らえながら

過去と今を旅する気持ちを覚えた。

島は どうしてこんなに~、
気持ちの奥深くを
振るわすような、空気があるんだろうねぇ。

何かと 対峙する 予感が、
この夏も あるなあ。
小学校の PTAに『事務員』がいる
ような、学校って
どんくらいあるんやろな。

うちが、この小学校PTA事務員に
なって、10年以上になる。

小学校の敷地内に、
PTA室がある学校も、
どんくらいあるんやろ。

役員のカラーなんてのは、
その時々で、熱心な時もあれば
テキトーな時もある。
でも、意外に 『同じ顔ぶれ』が
持ち回りでやってくる。

PTAをずっとする家系が
あるからなあ。

ただ、今の役員は違う。
久しぶりに、
『その家系』じゃない
保護者で作られてる。

その理由は簡単。
その時にPTAをやる人間が
出なかった。

一見よくある話やと思う?違う。
これは異常事態。

だから、あの日に
社協の会長から、
『今回は、かくし球を出す。
ちょうど認知もさせたとこや。』
って、
今の会長を連れてこられた。

この会長はずいぶん前に、
PTA役員を 駆け出しで、
会計から入れられた 奴やった。

その後、立派な会長になる為、
当時の県Pで、『カリスマ』って
言われた会長の所へ
弟子入りさせられたんよ。

これで分かるかな?
ホンマのPTAっちゅーのは
奥が深い。

しかも、
子どもが高校いってるまでが
本丸。やから、
中には里親を何回もして
役員やるのもいる。
驚きやろ?

その会長が、
社協会長の甥っ子を副男会長に
して 投入された。
たった2人からや。

あとは、会長が保護者から
インスピレーションで
副女会長をスカウトして、
彼女の目利きで、
他の役員が作られた。

始め
異常事態のヘルプ役員やったのが、歴代役員群で1番の組織
になったのは 皮肉なもんやで。

副女さんの能力は、
人の発掘力やった。なんせ、
よう人も、子どもも見てる。
あの人ぐらいちがう?

学童で10人ぐらい
バラバラの学年の子どもらの
宿題を一気に見れるのんは。

そりゃユリヤちゃんが
よう出来るはずや。

アタシ、事務員の本来の使い方も
よう心得てる。
アタシらの仕事は、
事務だけじゃないからね。

あと、アタシと同じ裏の
使い方で 監査女さんの質も
心得てる。
これは、アベレージ大きい。
引きが強いのも 能力や。

まあ、最初アタシは
『 監査女さんの能力』なんて、
眉唾やと思っとった。
それが 見事に覆ったんが、
あの事やわ。


悪いけど アタシも旦那も
定年迎える様な年。
今の保護者なんて、
息子や娘らの年やん。
そんなアタシに、
監査女さんは ある時、
言うてきた。

『事務さん、男の子出来てますよ。調べてください。』

いやいや、
何をおっしゃるウサギさんよ。
冗談か?だいたい、
出来る行為を しとらんがな!

それでも、一応
検査薬を試したよ?!
想像もしてないけど、
妄想妊娠もあるかしれへん。
てか、そんなもん 陰性よ。
当たり前や。

アホらしいやろって、
娘に一杯飲みながら 話たら、

「お母さん、もしかしたら
それは、比喩かなんかで、
病巣とか出来てるんかも?
人間ドックいったら?」

まで 言われた。

なんの兆しもないのに、
人間ドックもなあ。って、
思っとったら、ふと
若い頃 ワルしてた時に、会った
占い師を 思いだしたわけ。

今はもうないけど、
昔は『日本の九龍』って
言われた、不夜城ばりの場所が
あって、そこのある場所に
『占い師の占い先生』って
のがいてた。

今は不夜城は更地やけど、
あそこは ゼロ磁場とかいって、
場所がいいやと。
でまだ 居てるって 聞いてた。

久しぶりに、
あっちまで串カツ食べに
行きがてら、見てもらおうかと
思い ついたわけよ。




『あー、あんた。子どもいるね。
しかも、中国に男の子。
間違いない。』

いやいや、何だそれ?!
この占い師、朦朧したか!!

『騙されたと思って、
戸籍調べてみな』

それが結果。
知り合いの弁護士に
付いてきてもらって、
役所で調べたら、
1年前に 旦那が認知した形で、
うちらの戸籍に男の子が
入ってるやないか?!!

目が飛び出た!
なんや!ドラマか!

この いかにも
中華圏の名前の男子は!!誰!
しかも 母親は 中国っておい!

その戸籍写しとって、
旦那に詰めよったら
次の日には、
実家に逃げよった!!

あいつ、
会社の出張で行った空港で
声かけてきた、若い女と
致して、子ども出来たとか
言われて、退職金を
中国の女に全額渡しよって。

マジか?鳥肌やわ。

あげく、アタシと仲の悪い姑に
アタシに追い出されたと
泣きついて。

お義母さん、そいつ国外に
その年で子ども作らされてますよ。って、電話で叫んだった。
泡ふいてたわ。あれは、やった。

そっから、泥沼。
家庭裁判所で 言うことかいて、
アタシのDVで 離婚したいとか
根も葉もない
嘘まで のたまう 旦那。

家庭裁判所で 旦那に
掴みかかって暴れたったわ!
もとワルを 舐めんな!

慰謝料に、
退職金額もらって 離婚したけど。

ほんま、まさかの 熟年期離婚。

考えたら、旦那の実家は
京都のエエとこに
不動産持ってるねんけど、
あーゆーのんを狙われたん
やろう。

アタシには もう関係ないけど。
でも、これ ホンマの話。
世の中 こわいわ。
息子が この話スナックでしたら、
オヒネリに一万円もらったって。
なんやのん!

『事務さん、男の子 もう、
いなくなったんですね。』

協議離婚 出来た日に、
顔あわせて 開口一番、
監査女さんに言われて 思ったわ。

この女、本物やわ。

まあ、こんな人材のお陰で、
今の役員は歴代随一の組織に
なったわけ。

『おおーい、こっち持って
合図したら、一斉に歩調を
合わせて、まわるからー。』

『ナラク』から
男の人の声がする。


舞台の下って 言っても、
山の坂を 上手く使って舞台小屋を立ててるから、舞台は2階ぐらいの高さにあって、坂の底になる
1階が『ナラク』になってた。

昔の人、すごい!

ユキノジョウは、控え小屋の
引き戸をぬいた、窓ヘリに腕を
かけて、ナラクからの大きな声に 後ろを振りかえる。

そんな ユキノジョウに、
よそ見すんなって感じで、

「ユキノジョウ!
おまえもやるか?白波5人男!」

声が すぐ斜め上から 降った。

ユキノジョウが 向き直すと、
白ぬりの 化粧をしている、
カイトが 手のヘラを 見せて笑う。

「やるか!!全然、
中身、わかんないだろー!」

ユキノジョウは、あわてて
否定した。
冗談じゃないってーの。

でも、カイトは
まだ白くしてないアゴを くいっとして、女子達を 見やがる。

キャーキャー 言ってる
女子の 中には、ユリヤが見えて、
ユキノジョウは わざと、
口をゆがます。

「やれば、女子にモテんぞ!
たいてい、次の日に
1人は告ってくるしな!」

カイトの その 言葉で、とたんに
ユキノジョウは、自分の両目が
大きく開いたのに
びっくりした。

最悪だ!!すげー最悪だ!!

「カイト。しょーもない事いうな」

ようやく アゴを 白くぬり始めて
カイトが、悪そうな顔で
アハハって また笑い やがる。

たった半日、一緒に作業しただけのヤツに バレるのは 最悪だ!!


最初、ユキノジョウは
すごく、アウェイな 場所に
来たって 思った。

でも、副女さんの持ってきた
Tシャツの 威力は デカかった
のだ。

「おまえ、どこの子ども会?」

突然だった。

『ボランティアの子達は、ここの
子ども会の人達と、幕張りと
机 出ししてくださーい。』

リーダースタッフさんが、
ユキノジョウ達 ボランティア
や、ここの子ども会や、
青年会とかに、作業を伝えると、
すぐに ユキノジョウは 声を
かけられた。

「神戸。オレは5年だ。」

ユキノジョウは、声をかけてきた
同じ位の男子に答えた。

「オレ6年。ガムテープに、
下の名前 書いて貼っとけ。
幕と机、入れてる倉庫、いく。」

そう言って、ガムテープと
黒マジックを投げてきたソイツの
Tシャツには 子ども会の名前と、
『カイト』ってガムテープが
貼ってた。

中学生なんだろう、お兄さん達。
それを手伝って、
男女混ぜ混ぜで、カイト達と
ユキノジョウ達は 小屋や、鳥居に
机を出していく。


『わざわざ、そろいの Tシャツ
作る意味?そりゃ 着てりゃ、
似たような団体のヤツだって
分かるやんなあ?
人間は、似た外見してりゃ、
心開きやすいし、
ひとくくりになりやすい。
あんたらも、その内わかるよ。
そろいの制服、ジャージ、
うちわ、タオル、Tシャツが
作る、仲間意識ってヤツ。』

そんな、事務さんのセリフを
ユキノジョウは、すぐに
思い出した。

こんなに単純な モノ が、
ユキノジョウって よそ者を
なんとなく、ひとくくりに
入れてくれる 不思議さ。

これか!事務さんの 言ってた事!

「ユキノジョウ!
1人で1個、机もてるか?」

カイトは、ここの子ども会の
リーダー的な ヤツだ。6年だしな。
ユキノジョウは なんとか机を
持ち上げて 小屋に運ぶ。

芝生の階段に合わせて、段々に
作られた 小屋の引き戸を外して、
机を立てる。
ここが 控えになる。

芝生の階段に、虫干ししていた
着物は、副女さんと ユキノジョウの母親達が、表にしたら、
後で、ユリヤ達 女子達が
木の箱に直していく。


この 神様の 場所に ある
昔話な、『かやぶき』の建物は、
農村歌舞伎の 舞台 とかで、

その台本が 昔からずっと残って
るって、カイトに 聞いた。

こんな、山の舞台で出来る演目が
200以上あって、今でも20演目は
するって、驚く。意味わからね。

それより、虫干しの着物は 全部
衣装で、750以上は 残ってるん
だとか。すげー。
そんで、それを教えてくれる
カイトも すげー。

ボランティアに来てた、
おじさんの中には、
『小道具に 元禄時代の鐘が
ふつうに あるって 凄いです!!』って、騒いでた。

それにしても、
着物は たくさんあるけど、
保存が大変なんだろう。
虫がけっこう いてたぞ。
モゾモゾって、かゆくなる。

お昼ごはんに なって、
カイト達が、ユキノジョウ達を
棚の田んぼの、
もっと上にある 取っておきの
場所に連れ行って くれた。

女子達も一緒だから、
ゆっくり上がる。

鳥居の横に、すごい勢いで流れてる山の水があって、
その水路をたどり、上る。

そしたら、ぐっと棚がせり出した
所がある。
えーっと、ほら テレビで見た
外国のホテルの高い場所のプール!
あんな 棚の田んぼのふち!

「ほら、マチュピチュみたいだろ?行ったことねーけど、
大人が言うんだぞ、『日本の
マチュピチュみたいだ』ってよ!」

副女さんがバスで言ってた。

ユキノジョウも 行った事ない
マチュピチュは分からないけど、
すごい爽快で、
まるで
青い 棚の田んぼ に
浮かんでる 雲の気分だ。

ユリヤとアコも はしゃいで、
2人とも 棚のはじっこで、
両手を 大きく ひらげている。

そう!飛べそうなんだ!

ああ、船のはじで手、広げるヤツ
あんな気持ちかもな、、
ユリヤの背中をみてて、思った。


『ユリヤちゃーん、
アコちゃーん!ごはん 食べよー』

女子達の何人かが、呼んでる。
手に 長い木の箱を 持ってるんだ
けど、あれってさ、弁当箱か?

「あの箱って、弁当箱?
デカイなあ。」

ユキノジョウが聞くと、

「歌舞伎んときは、『わりご弁当』食べながら見るんだぞ。オレらは
出るから、昼めしにって、子ども会の母さん達が 持たしてくれた。」

ラーメンの配達の 入れ物が、
木で出来てて、中に 積み木みたい
木の弁当があった。

「台形だ!」

アコが、木の弁当箱の形に
声を上げた。だよな、パズルみたいに、弁当が入ってんだもん。

「いいの?うちは、ここの
子ども会じゃないから、、」

ユリヤが、女子の1人に遠慮して
話してる。あの女子も6年か。

『いいって。ユリヤちゃん達の分は、うちらのお母さん達のん。
お母さん達は、ユリヤちゃん達の
お母さん達と、カフェランチ
するって、喜んでたー。』

そっか。バス停の横にあるお店で、ランチするって言ってたかも。

「わざわざ 古民家カフェでメシ
する事ないかんな、テンション
あがっとったな!」

カイトが、その女子に 声かけて、
ユキノジョウの分の『わりご弁当』を持ってきた。

おにぎりだと思ってたのは、
お酢のご飯を 四角型に ぬいてた。
このお米も、この田んぼの
なんだろうか?
よくわからないけど、
食べると、元気になる 弁当だ。

そんな、大きくないから
ユリヤも食べきれるな。

『トマトと、キュウリ、うりある
から、水路に 冷やしとくなー』

網に 野菜を 入れて、
4年の男子が カイトに叫ぶ。
すぐ、カイトが そっちに
見に行った。
1番上が、下のめんどうを
見るんだってよ。

うり?

ユリヤが ユキノジョウの所に
寄ってきた。

「ユキ君、もっと上に、共同の
洗い場あるんだって、ご飯たべ
たら、
女子はお弁当の木の箱洗うって。」

「じゃあ ユリと、
アコは そっちだな。」

オレら男子は 舞台の装置を
大人が動かすのを 見に行く。
カイト達が、やり方を覚えに行く
からだ。

「どうかな。アコちゃんは、
同い年の男子と 下に行くって。」

え、アコ、あいつ。

「へー、アコちゃん、
『竹のアート』に見に行くんか。
デートやなあ。」

ニマニマしながら、カイトが
戻ってくる。
入れ替わりで、ユリヤは女子に
呼ばれて行ってしまう。

作業してると、あんま一緒じゃないのは、仕方ないかあ。

「ユキノジョウ達、バス停から
下を見たろ?あの下の方に、
芸術祭になったら 竹をつかった
空間ができるんや。
棚田が見えて、ええで。
すぐ見えるとこやから、
中学年でも 大丈夫やろ。」

カイトが教えてくれたけど、
なんだよ アコは、ちゃっかりしてんな。

「じゃあ、オレもユリと
行こっかな。」

隣に座るカイトに、場所を
教えてくれるかと 聞いたら、
ユキノジョウと、ユリヤは
小道具を動かす 係だから、
練習あるって、ダメ出しされた。




『ハイ!!じゃあ、今度は
人が乗って、装置が乗ってる状態で、回します。せーの!!』

ナラクの底から 男の人達の 声が、
聞こえて、ギッギッって 低く音がする。

「なあ、カイト」

そう ユキノジョウが
窓へりから カイトを見ると、

控え小屋で、
白ぬり化粧が 胸や背中にも
終わった カイトが、カツラを
したところだった。

どこかで、女子の声がする。

腰に落として いた、
青紫の着物を たくしあげて、
そでを とおして、
立ち上がった 姿。

今日1日 ユキノジョウと、
一緒にいた 6年のカイトは、
どこかに 消えて

ベンテンコゾウキクノスケって、
ヤツになっていた。



静寂の 境内に

リーーーーンと
幽玄か 音色の 風鈴の声


花の都の 吉田少将がぁ 娘は
東国に さらわれしが
『かの伝説の姫』

壮絶か人生ぃ 如何

清水寺の僧がぁ 姫 に恋し
大破戒するが 長き舞台ぃ

それ 始めの 縁起とは 如何

因果因縁

輪廻転生

諸行無常

因縁の 舞台はぁ
江ノ島 稚児ヶ浦
寄せるる 白波
断崖絶壁

まずはぁ 過去の因縁が 舞台

小豆が島の
農村が 舞台~

雲偏に愛く 波幕
黄昏時に 吹く風揺らぐ
蝋燭の 行灯

始まりますわぁ 幕開け
柏木柏木~

禁断の恋
同性愛
妻帯婚姻 不敬罪
所化と 寺稚児は
恋に溺るが 濡れ場

ああ
今生 相いれぬ 関係ならば
死して 未来に 夫婦にと

出奔 出奔

佇む二人は 稚児が淵
只今 稀代の 心中
秒読みか~

小さき香箱 蓋と身に 分け
蓋を 寺稚児が 左手に
身を 所化に
香箱
蓋と身
互いの名を 認め
起請代わりか

香箱や 愛の証

蓋を 握りしまま
来世で 必ず添い遂げるを 願い

寺稚児 ざんぶと 海へ飛び込む

愛せし 寺稚児
潔し 断崖 投げ出し 落ちる姿
ああ 小さくなり姿

仰天は 所化
荒れる波勢に ぽちゃり消えし
愛おし 稚児

追って 荒海に
いけや所化!今いけ!

が 怖気け 躊躇し
死に遅れ 生き残りし
無様さぁ 所化なぁ

何故に 身投げ出来ぬか
我が 恥の身やぁ

「白菊やぁい」

出奔 寺稚児を 探す声
遠きに 聞こえしを
顔面蒼白
只只 絶壁にて 放心するが 所化

一羽の 白鷺
スイ飛び立つ にて
あれは、なにが 兆しか


あれや、夕暮れに
回るや 人力廻り 舞台

時は流れし 十七年月
現れますは
新清水寺の 境内

桜が 大満開 清水観音堂
花見や花見や 行幸や

憂いの姫は 年十七

出家を 心に 寺門に すがる姫
必死や
止める 腰元達の 情景

揺れる 女衣や 衣装達
柏木柏木~

境内 段幕下がる 島花道を
十七年前
心中
叶わず 修行しし 今は高僧
あの 所化が
弟子も 引き連れ 参り舞台へ

姫の出家 願いを 聞きし
弟子達も 出家を 止めるや
女は罪多しが 故にと はぁ
戯れ言がぁ


姫は 出家の 事情あり

聞けば 生まれてこのかた
左の手が 開かぬ

1つ
この身体や 縁談進まず
断われる ばかり
この身の 故は
前世の罪の せいか
出家にて 願うは
在業消滅

2つ
姫は 殿様の 子女が
悪辣なる者 屋敷に忍び
殿様を 惨殺
家宝「都鳥の一巻」
奪われ
弟をも 殺され
お家は 明日には断絶

悪辣の者に 手籠め受け
身に子さえ 産みし体

出家しは 家族供養をと
血涙の決意が 姫や姿

事の顛末
聞きし 同情の 元所化
今は 高僧
姫の出家に『十念』授けし

『 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏』

神聖なりし 仏の御名を 唱え
姫の身 仏に 近けんとす

あれ『十念』の功徳~

姫の左手が みるみる開きか
掌から 出てきたは
前幕にて
身を 滅ぼしや あの君が蓋
愛おし 寺稚児や

我が 名書かれし
香箱の 蓋!

驚愕は 元所化

姫や 愛おし 寺稚児の
生まれ 変わりか

元所化や 今は高僧
姫の 左の手を むんずと掴み

恋か 責任か 執着か
人の心とは 摩訶不思議
所化や 高僧 浮かばれぬ
心の奥の 波の音

ザンザと 泡立ちかけ上がる
高僧の右の手に
香箱の身

2つ 合わ~せて~

ダダンダダン
柏木柏木~

出でたる 黒子が
二人を 七変化か
僧の衣と 姫の衣を 引っ張るや
現れる 前幕の衣装

過去の 因縁
江ノ島は 稚児ヶ浦

元所化、姫稚児
合わせる 香箱を
一羽の 白鷺
スイ飛び立つにて

客の波間に間に
香箱を咥えて ゆらゆら

神場の社へと 消え失せる

因果因縁

輪廻転生

諸行無常

禁断の恋
不敬罪
今生 相いれぬ
死して 来世に 契り

愛の証は
断崖絶壁
死に遅れ 生き残り

只只絶壁

秒読みか
在業消滅


静寂の 境内に

リーーーーン
リーーーーンと
幽玄か 音色の 風鈴の声

夕闇迫る 舞台に
篝火の行灯揺れる
『白波5人男はなあ、天下の
大ドロボウ一味 なんだぜ。』


そう、カイトはいい顔をした。


「白波」って墨で書かれた傘肩に

ザあッッッー!

一斉 花道 の5人組が 客席に
向く

『しらざぁ~
いってぇ きかぁ~せやしょう~』

カイトのベンテンコゾウは
戦隊ヒーロー みたいに ピシッと
そろいの 動きで、すげー、

かっけーーー!!

高い ゲタに、大人の 着物で、
和風の傘と、首に 手拭い かけて

『白波』って 中国のドロボウん
名前なんだって?
なんだよ!
ドロボウって 書いてる 傘持って
言っちゃってる じゃんかよ!

なんだかよー

ユキノジョウが 初めて 目にした
島の 歌舞伎は
くそー!! 夢みたいに チカチカ
した 万華鏡 だった。


「最初 町長がさ、籠に エッサ
エッサって、のせられて 花道を
来たんは オモロ かったなー。」

カイトが、差し入れのラムネ瓶を
ユキノジョウの 顔ん前に 出す。

「あんな籠、時代劇しか 見たこと
ないし びっくりした。あれ、
あいさつ してたの、町長か?
演歌歌手かと 思っとった。」

町長さんは、
あいさつの中で、新型ウィルスの
話とかをして、集まった全員で、
目を閉じて、静かにモクトウと、
祈りをした。

夕方のにおいがして、

ユキノジョウも、世界が幸せに
なるようにと、すぐ後ろの 神様に思った。

出されたラムネ瓶は、
開いた口 から パチパチ音がした。

「いつもの 奉納歌舞伎ん ときと、
ちがう事 ばっかりで オレらも
オモロかったな。あいさつん後の 『三番叟』もあんな 盆踊りみたい
なん、やった事、初めてだー。
芸術祭の特別バージョンだ。」

パチパチのラムネ音を、カイトが
グッと 飲み込んで ぷはーっと
笑う。

ユキノジョウは、あの 猿回し
みたいな着物と 帽子の ヤツら
ねーって 、思い出した。

チョン チョン、シャン シャン

手に楽器や、鈴をならして

足でとる拍子が
田植えを してるみたい。
猿回しの服が たくさん 出てきた。

ここに 住んでる お客さんが、
すごい 驚いて 、笑って、一緒に
座りながら、
手だけ ヒラヒラと 踊ってた。

『所々、オモロイのはさんで、
いっつもと違うて、楽しいなあ』
って、お婆ちゃんが
しゃべってる。


ユキノジョウは、隣の カイトに、

「その後ん 出てきた カイト達は、すげー、カッコ良かった しな。」

降参だって フリをして
正直に言う。

「だろ? オレ1番好きなんだよ、白波5人男。ユキノジョウもやりゃ、良かったんだよ。」

ケラケラって して カイトが言う。
ユキノジョウも、出れば 良かったと 少しだけ 思ったのだ。

だって、左手の 花道から
カッコいい カイト達5人組が
出てきた後、
今度は 右手の花道から
また、5人組が 出てきたのだ。

後からの5人組は、当日の
飛び込み組で、これもお客さんに ウケにウケた。
飛び込みなら、ユキノジョウにも やれたと 残念だった。

それぐらい、カイト達は
良かった。

「そうだよなー!あれなら、次の日 、そりゃ 告られるな。」

ユキノジョウは、ラムネを飲み
干して、コロンと 中の、ビー玉を鳴らす。

「だろ?あとは、中学組がやった、『手習い』の車引も 人気あるしな。次は、あれをやりたい。」

カイトは、ビー玉取れないだろ?って顔をして、ユキノジョウから瓶を取り上げながら 言う。

「車引って、どれ だったっけ?」

「あれだよ、3人出て来て、
バーって 着物のそでを
黒子が、広げるヤツ!」

「おおー!あれか!ちょうちょ
みたいに なる!ハデなヤツ!」

たしか、
エンギ?がいい三つ子が
お互いに 敵対するとこの 牛の
専属運転手してて、出会い頭に
ケンカして、見栄はりあいする
話だって、副女さんが教えて
くれた。

意味は あんま、わかんないけど、

紫と白のチェックの着物が、
羽みたいに バーって広がるのんと、三つ子の動きが ピタッて
あって その ポーズが
やっぱ、かっけーかった。

「でも、あれだな。ユキノジョウは、二人でシラサギと香箱やれたしなー。ヤクトクって言うんだぞ。」

カイトは、そういって そのまま
ひっくり返えった。
神様の社の前も、芝生がある。

「オレ、黒子やっただけだぞ。」

ユキノジョウも、芝生にひっくり
返えると、背中がヒンヤリする。

社の行灯の明かりが 頭の上で、
虫を寄せ付けながら、
チロチロ燃えてる。

ユキノジョウと ユリヤが頼まれたのは、最後の場だ。

生まれかわった お姫さまと、
お坊さんが、もう1度 出会う話。

姫さんの手から 香箱のフタが
出て来て、
お坊さんと、前世の姿に なった
お姫さまが 合わせた香箱を、
シラサギが くわえて飛んで いく
シーン だった。

ユキノジョウが、シラサギの
作り物を、
ユリヤが 香箱を
釣竿で つって、
お客さんの中を 走りぬける。

「でも、あっこの場面。不思議
だったよな。風鈴の音がしてさ。」

カイトは、出番が 終わって、
衣装のまま 脇で 見ていた。
花道の 幕がめくれて、
カイト達の 顔だけ 出ていて、
笑えた。

「オレ、シラサギ
動かしてたけど、時間、
止まってるみたいだった。」

ユキノジョウは、
ユリヤと 二人並んで、
手を つなぎながら、
真ん中を キンチョウしてたけど、
抜け出て 神様の場所に 行く。

お客さんが 誰もいないぐらい
静かで

リーーーーン
リーーーーンって、音だけ が
頭と 境内 に ひびいてる。

舞台の お坊さんと お姫さまは
そのままで 話は
終わりだけど、

まるで、あの 二人の魂に
ユキノジョウと、ユリヤが
代わりを
次いだみたいに
お客さんの波に

ユキノジョウ達は 消えた

神隠しにあう って
こんな 空気なのかも

ユリヤのこえ が 耳元にして。


「ユキノジョウ達の背中、みんな
見てて、気がついたら、紙テープ
投げてさ、結婚式みたいだったぞ」

カイトは ニカッと 悪い顔して、
ユキノジョウを 見る。

あの後は、
お客さんに エンディング用に
配ってた、紙テープを
みんながなげて、
紙吹雪が 舞台に降って、

終わりの音楽と
三番叟の猿回しのヤツらが踊って出て来てたから、
お客さんも、
舞台の役者も
みんなが、
好きずきに踊って

終わった。

「二人の 共同作業 だろ?」

カイトが、体を起こした。

ユキノジョウも、顔だけ、
機嫌を悪そうに 起きて、

「、、あれ めちゃ BLの話だろ。
ドキッてするよな。」

カイトに言う。

「男子と女子がかわって、生まれ
かわって、近くにいなくてもって 話だよなー。
歌舞伎だと よくあるけどな。
本当に あった話とかで 台本、
つくられるっていうしな!」

ユキノジョウは、
カイトの 言葉に おどろいた。

ベンテンコゾウをしてると、
そんな 風に
大人みたいな 話もでてきて、
練習とかするのか?

カイトが 1個しか
学年かわらないって、ウソだ。


舞台の片付けは、
大人達で、すっかり終わり

舞台に近い芝生に、
女子達は 座って しゃべってる。

配られたラムネの 空き瓶を
あずかりに 行くぞって

まるで、肩に傘を
広げてるみたいに、

カイトは 立ち上がる。

ユキノジョウは、
1人 舞台の方へ あるく
カイトの背中を 見たまま
すぐ 立てない。

たった1つの階段は
デカイ。

ユキノジョウの 頭の上で
燃えてた 行灯の火が
風で 消えて、こげた
においがした。


さっきまで、芸術祭で
島を回っている お客さんや、
来賓さんとか、ヘルプの
ボランティアリーダーさんとか、
ワチャワチャ居てた。

今は ここのお手伝いさん、
子ども会、青年会、保存会さん
ユキノジョウ達ボランティアと、
ここのボランティアリーダーさん

だけが、残って 作業を
終わらせてる。

『お疲れ様でしたー!
ボランティアの皆さん!
よければ地元の方が
お疲れ様会で、食事を公民館に
用意して下さってますので、
ぜひ食べて行ってくださーい!』

ボランティアリーダーさんの、
言葉に、大人の男の人達は、

おおー!!って、声をあげている。

「ユキノジョウ。大人はすぐ
公民館行くけど、オレらは
ちょっと
舞台ん裏、見てく。
ユキノジョウも来るだろ?」

ユキノジョウの肩を、後ろから
チョイチョイと呼んで、カイトが
舞台の脇へ消えた。

一瞬、副女さんや 母親の顔を
見て、舞台を指さすと、向こうも
うなずいた。言いたいことが、
わかったんだろう。

女子達といた、ユリヤの肩を
たたいて、舞台を指さすと、
やっぱり うなずいた。

『この紐を引っ張ると、
幕が降りて 場面が変わる。
どんどん、場面が来たら、
降ろす感じな。』

ユキノジョウ達が、カイト達に
合流すると、舞台の 説明を、
お兄さんが している。

『こっちの紐をゆらして、
雪とか紙吹雪の籠を動かす。
紐を引っ張るだけで、操作
できるようにしてるんな。』

舞台のそでは、ユキノジョウが
思うより広くて 驚いた。


「あの 兄さんなあ、
別んとこの人やったけど、
ボランティアでここの歌舞伎
やるようになって、そのまま
住むようになったんやぞ。」

カイトが、ユキノジョウの耳に
小さい声で 教えたけど、どうやら お兄さんには、聞こえたらしい。

『なに?カイト。お、新しい
ボランティアの子かぁー。
そう、俺は、もともと
地元の人間じゃないな。』

ちなみに、
ユキノジョウとユリヤ以外は、
ここの子ども会の子達だ。

だから、お兄さんが、
ユキノジョウ達に
声をかけてくるから、思い切って
聞いてみる。

「ここの舞台を やりたいから、
引っ越してきたんですか?」

お兄さんは、ユキノジョウを見て

『君、今日、シラサギ動かし
てた子やね。どうやった?
歌舞伎、面白かった?』

と、反対に聞いてくる。
それは、反則だぞ。
ユキノジョウは、少し考えて
ユリヤも見て

「よく、わからないです。歌舞伎も初めて見ました。カイトが出てるし、お手伝いもしたから、
オモロかったんだと思います。」

正直に言った。
ちょっと カッコ悪いけど。
仕方ない。

『それって、いつもと 違う自分や、いつもと違う世界に 何か発見があったような気がして、
ちょっとびっくりしてる?』

そーくるのか?
うーん。まあ、
そんな気がするから、
ユキノジョウは うなずいた。
でも、そうなのかな?ぐらいだぞ。

『少年時代の夏休やなぁ!!
良かった。手伝ってもらった
カイが あったなあ。
なあ、カイト。』

そう、お兄さんが カイトの頭を
なでると、カイトは よく
分からないって顔を している。
だよなー?

『あとは、奈落に降りて、
回り舞台の底を見て行って
くれるか。
みんな 身長伸びてるな、
回し棒に手が掛かるか、見とき。』

ウオーイって、男子と女子は
下へ降りて行く。
そうして、
お兄さんが ユキノジョウ達を、
ここ!って、
舞台の 真ん中に 呼んで
ドカッと座る。

『俺な、東京の小さい
劇団で役者してたんよ。』

舞台の真ん中から まっすぐ前を
見ると、神様の場所が見える。
夏だから、7時になっても
まだ明るい。

『君らと同じようにボランティアで、ここの農村歌舞伎を手伝って、そのうち舞台に出るような、
ボランティアをして。最初は、
役者の経験になれば
ぐらいでお手伝いしてたなぁ。』

お兄さんは、舞台に手を ついて、
舞台から 投げ出した足を、
ブラブラさせた。

ユキノジョウ達に話すという
より、独り言みたいに。

「東京から、島に引っ越す
のって、勇気いりませんか?」

めずらしく ユリヤが口を開いた。
しかも、引っ越すとかいう。
どういうつもりだ。


『勇気?!いった!凄くいった!
でも島にきた。へんだろ?
仕事でもないのに、島で 歌舞伎をする 為に こっちに住むなんて?』

大人達はもう、
公民館に 行ってて、
ナラクから聞こえてた
子ども達の声も

今は消えていた。

『それでも この舞台に1回立つと
思ったんよ。ずっと自分が
役者する為にバイトして、役者を
やりたい自分が 生きる意味
全部やった。でも、ここに立つ
のは 神さんに 見せる為なんよな』

涼しくなると、
虫の声が 聞こえる。
ふと、ユキノジョウは
お兄さんの声を聞きながら
思う。


『神さんと、自分。それだけに
なる。凄い 生かされてるって、
満たされるんな。あんまり、
わからんかもやけど、大人に
なって 俺の言葉、
思い出してくれたら いいよ。』

お兄さんは、そう言って笑う。
ユキノジョウは まじまじと
笑う お兄さんの 顔を 見つめた。

お兄さんの首には
まだ 姫さんの白粉が残っていて、

隣に座る
ユリヤの首は
いつもなら 赤くなるのに、
めずらしく ふつうに、

日に焼けていた。

大人になれば、
お兄さんの 言葉がわかるのか。

ユキノジョウは

まだまだ、自分の気持ちとか
思う事が、言葉にならない。
大人に なれて ないからかー。


『ユキノジョウー、
そろそろバスに乗るって!』

ユキノジョウの母親の声が聞こえて、アコが舞台に顔を出した。

「お兄ちゃん、時間だよ。」