ギャラリスト、武久一。

ハジメは 瀬戸内にある、
島の1つに来てる。

彼は
アートギャラリーのオーナー
だが、今は 白い帆がある
クルーズ船の中を ギャラリーに
して いる。

島の港に、横付けた船で
臨時の 『クルーズギャラリー』を
開いているわけだ。

「ホント、今年はぁ、
芸術祭が開かれるのか
どうかも、分からなかった
けどぉ、良かったよねぇ。」

やや タレ目 気味の瞳を 細めて、
今日もベージュ麻のスリーピースを
纏った ファッションのハジメ。

船のテラスで ご機嫌に、
モーニングを終わらせたところ。

「今年で、瀬戸内の
芸術祭ってぇ、何回目に
なるんだろう~ねぇ?」

スタッフのシオンくんが、
島で、朝早くに 焙煎された
コーヒーを いい香りさせて
淹れてくれる。

コーヒーショップには、
本とか オリジナルの グッズも
売っていたらしいねぇ。

「ハンドメイドの
コースターなんてぇ、
久しぶりに使ったなあ~♪
まるで彼女から みたい♪」

指先で、遊ぶデニムコースター。

ハジメは、
この時期に合わせて島で
クルーズギャラリーを企画した。

瀬戸内では
3年に 1度開かれる
国際芸術祭がある。

いわゆる『トリエンナーレ』だ。

2年に1度に開くのは、
『ビエンナーレ』。
どちらも語源はイタリア語。

1990年代以降、世界的に
『国際美術展』がされる事が多く
なったんだよねぇ~♪

「う~ん。始まりは、語源にも
なってる、ヴェネツィア・
ビエンナーレだよねぇ」

ハジメは、
濃厚な ガトーショコラを
舵細工のフォークで 口に入れる。

朝の 7時から 島で 売られる
コーヒーと、ガトーショコラ。
嬉しいよねぇ~。

さて、
ヴェネツィア・ビエンナーレ。

『美のオリンピック』て、
呼ばれてて~、
最先端の 芸術が 発信される
それこそ~ 国単位で競う
とっても有名な 展示会なんだ
よねえ。

芸術祭というのは、
世界のアートを一堂に介する
展覧会で、ヴェネツィア・ビエンナーレにより、100年以上の歴史が
あるイベントなんだよぉ。

アートに関わる者と
住民の交流、観光客の交流が
国際レベルで行われる。

地域 開催ならば、『地域おこし』を兼ねる事も多く、形式は、
世界から美術家を呼ぶ
『招待展』、『公募展』など
様々なんだ~。

「デニムってぇ、そうか~
近くの児島が産地だよねぇ。」

そう言いながら、
ハジメは 船の テラスから
ユラユラと 手を振る。

島の子ども達が、珍しそうに
集まって来たらしい。

「てかっ!!僕は独りで
しゃべってるっ事かなあ~?!
何か返してくれないのぉ?!。」

ハジメの 向かい側テーブルで、
ガトーショコラの感想を
言い 合っている スタッフに、
投げ掛けた。

「え? ハジメオーナーって
しょっちゅう 独り言いって
ますしー。今さら 気にも かけ
ませんよー。あと、彼女とか
妄想がヒドイー。」

シオン君は、今度は 自分が買って
きた 島焙煎のコーヒー袋を、
隣の ヨミ君に 見せて、
こっちを 見てもくれないよぉ。

「オーナーは、コーヒー、
デニム、芸術祭の思考が
節操なくダダモレ 過ぎ
なのでは ないですか。」

クールビューティー ヨミ君はぁ、今回 船にあわせてか、
メガネのフレームに錨細工や、
ツルが波形の ネイビーブルー
眼鏡姿だよねん。浮かれるぅ。

絶対仕事する気がないよねぇ?!

「じゃあ、オーナー質問!!
最近は 全国である、
芸術祭ですけどー、
日本で最初の芸術祭って、
何処で何時にあったんですかー?」

なんだ~、ちゃぁんと僕の話を
聞いて るんだねぇ、シオン君。

なのに~、

「そうねぇ。やっぱり、、、
岐阜の『国際陶磁器フェスティバル』じゃないかしら?

美濃のは最初から、
世界級の陶磁器コンペティション
だったみたいだし。
80年代から続いてる、
陶磁器トリエンナーレって事なら 断トツ ここが日本の初国際芸術祭ではないかしらね、後輩ちゃん。」

え~、なんで ヨミ君が スラスラ
答えちゃうのん~。

「へー、明治の京都博覧会かなーって思ったんですけど、
やっぱり博覧会は産業で、
芸術祭はアートって事ですね?

意外に日本では、陶器市が
トリエンナーレやビエンナーレ
文化の起点なんですねー。
茶道文化の賜物なんですかねー。」

うんうん~、いいんじゃない。

ちゃあんと仕事してるみたい
だよねぇ。

ハジメは 満足気に、
香ばしい、島焙煎のコーヒーを
シオンに、お代わりする。

「ヨミ君、僕も同じ考えだよぉ。
それに、芸術祭と観光は
リンクしてるしねぇ。」



1980年代。
日本でバブルの兆しがみえ、
パーソナルコンピューターが
生まれ、日本で海外テーマパークが開園した時期は、

『昭和』文化が開花した時代。

美濃で開催かれた展示会は、
わざわざ、海外の
陶器フェスティバルを視察して、
開催された
『国際陶器展示会』だった。


ついっと、ヨミ君は、
錨の細工部分を 指で上げながら、

「始めから 世界からの集客を
目指した、国際レベルの
『陶器の展示会』を目指した、
と言う事 ですね。」

僕に振ってきたねぇ~。

「そうだねぇ。歴史ある
美濃焼は、最大の生産量を
誇ってたのに、国内での
知名度が低かったんだよ~。

だからぁ、国内外にPR、
あと 世界の陶器も集約して、
デザインの交流も コンセプトに
したんだからぁ、国際芸術祭の
枠組みに入るよねぇ。」


そう、
始めは、文明開化の明治。

飛行機や、陸蒸気。
船による、 観光ブームの到来。

この頃すでに、
景勝観賞や サナトリウム保養を
目的とした『地域づくり』が
生まれ、観光が『産業化』しているのには、驚く歴史だ。

そして、戦後の混乱を脱した、
1960年代、高度成長期だねん。

新幹線や 高速道の整備で
交通移動が容易になり
再び観光ブームの2波がくる。

今度は、
『◯◯狩』といた観光農園とか
地域の地場産業と組み合わせた
形態の観光業で、
『余暇を過ごす観光』形態が
生まれたわけだよねぇ。

温泉地には、人々がごった返し
旅館ホテルの巨大化が起きる。

各地で産業や、産物の博覧会が
開催されるのもこの頃~。

同じくして、結婚観の変化で
「新婚旅行」も流行る。
メディアの普及も大きい。

なにせ、
旅行は、一大ブームとなった。
あわせて、観光地の地場産業も、
賑わい、バブル的観光 旅行が
生まれたわけで~す♪。

「でも、それじゃあー、
産業って事で、
『博覧会とか、展示会』と
『観光地』はリンクしますけどー、アートの絡みがみえませんけど?」

おや?!
いちいち、鋭くツッコんで
くるよねぇ~、シオン君!

え、君どんだけ、島で、
買い物してるの? 島題材の本?
あの、スパイモノだよね?

何、その銀色と金色の
レトロな包み紙の お饅頭。

え~、僕には ソレ 無いの?!
オーナーだよぉ僕~。